原題 | Omar |
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制作年・国 | 2013年 パレスチナ |
上映時間 | 1時間37分 |
監督 | 監督・脚本・製作:ハニ・アブ・アサド(『パラダイス・ナウ』) |
出演 | アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ、サメール・ビシャラット、エヤド・ホーラーニ |
公開日、上映劇場 | 2016年5月7日(土)~テアトル梅田、近日~京都シネマ、元町映画館 ほか全国順次公開 |
愛、友情のためになら巨大な壁さえ越えていける。
占領下、自由を求めて生きる若者たちの鮮烈なドラマ。
ヨルダンの川西岸にあるパレスチナの町は、ベルリンの壁よりも巨大な壁に分断されている。国際法を無視したイスラエルの占領政策によって建設されたその分離壁を、映画の冒頭、主人公の青年オマール(アダム・バクリ)は、1本のロープをつたって身のこなしも軽やかに乗り越えていく。イスラエル兵の監視の目、銃撃をくぐり抜ける姿を、嘲笑する者の目にはあるいは猿と映るのか。少なくともその時、私には、愛と自由の守護天使に導かれているのだろうと思えた…。
オマールは、壁の向こう側に暮らす幼なじみのタレク(エヤド・ホーラーニ)とアムジャド(サメール・ビシャラット)の3人で“自由の戦士”となるべく、武装組織イスラエル団から銃を調達しイスラエル軍を襲撃する計画を立てている。彼はリーダー格のタレクの妹ナディア(リーム・リューバニ)と密かに愛を育んでいて、パン職人として働き結婚資金もこつこつと貯めるなど誠実な青年だ。ところがある日、イスラエル兵の陰湿な嫌がらせを受けたオマールが作戦の決行を急がせたことから、非情な運命の歯車が回りだす。検問所のイスラエル兵狙撃事件の容疑者として拘束され、心身とも壮絶な拷問をうけるオマールは、タレクの情報を入手したい秘密警察に沈黙で抵抗するが、狡猾に“猿をつかまえる”ラミ捜査官(ワリード・ズエイター)の罠にはまってしまう。囚人となれば最愛の女性との未来は失われる。密告者となれば、ナディアには一生許されないだろう。だが、葛藤を深めるオマールは、すでに見えない鎖につながれていたのだとは思いもしない。
逮捕に協力する条件付きで釈放されたオマールは、タレクに迫る危険を回避し自身の潔白を明かすためラミ捜査官に罠を仕掛けるが、手の内を見透かされて再び、連行される。そして、タレクを殺せと命じられ町に舞い戻った彼は、罪を着せたことを詫びるアムジャドが内通者だったと知る。それは妊娠させてしまったナディアを、秘密警察から守るためだったというアムジャドの告白に、怒り狂うタレクが皮肉にも命を落とし…。理想に燃え、意気揚々としていたオマールは、すべてを失った時、たちはだかる壁の本当の巨大さに初めて気づいたように無力感に襲われる。そんな彼が、愛を貫くために“選択”したこととは…。
ラスト近く。壁の前で泣き崩れるオマールを、見かねて老人が手を差し伸べる光景に、ハニ・アブ・アサド監督(「パラダイス・ナウ」)のパレスチナへの思いがにじむ。多くの悲惨な現実を目の当たりにしてきただろう老人が、それでも若者に託そうとする未来への希望…。じりじりと緊迫の度合いを深める心理サスペンスとしても見ごたえのあるラブストーリーだ。
(映画ライター 柳 博子)
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★公式サイト⇒ http://www.uplink.co.jp/omar/