制作年・国 | 2016年 日本 |
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上映時間 | 【前編】2時間01分 【後編】1時間59分 |
原作 | 横山秀夫『64(ロクヨン)』(文春文庫刊) |
監督 | 監督:瀬々敬久 主題歌:小田和正「風は止んだ」(アリオラジャパン) |
出演 | 佐藤浩市 綾野剛 榮倉奈々 夏川結衣 緒形直人 窪田正孝 坂口健太郎 椎名桔平 滝藤賢一/奥田瑛二 仲村トオル 吉岡秀隆/瑛太 永瀬正敏・三浦友和 |
公開日、上映劇場 | 【前編】2016年5月7日(土)~ 【後編】2016年6月11日(土)~全国東宝系にてロードショー |
★赤裸々“サツの実態、暗部の血みどろ
犯罪を題材にした映画で、かつて警察は頼もしい“正義の味方”だった。ギャングや泥棒映画から政界のボス相手のサスペンス映画まで、警察官や刑事さんは「悪人を捕まえる人」として庶民の側にいた、はずだった。ところが、時は流れ、時代も移り、警察が“庶民の味方”と信じるうぶな人はすでにいない。警察の“裏金問題”が各地で明らかになり、警察不祥事が日常茶飯事になった今、映画でも警察が悪役として登場することが少なくない。
警察内部のリアルな描写で定評ある横山秀夫のミステリー『64(ロクヨン)』は警察内部の熾烈な争いが実に生々しい。元上毛新聞社会部記者として取材してきた“記者の目”は容赦なく警察内部の実態を暴き、小説と分かっていても「ホンマに大丈夫か」と心配になるほど。
時は昭和64年。昭和天皇が崩御され、わずか7日間で幕を閉じた年に起きた少女誘拐殺人事件。未解決のまま「ロクヨン」と呼ばれる凶悪事件が時効まで1年と迫った時、あろうことか模倣犯が現れる。
元刑事として「ロクヨン」捜査にも加わっていた三上(佐藤浩市)は、今は警務部秘書課・広報官のポストにあった。彼に「警察庁長官」視察という難題が下される。「ロクヨン」の被害者・雨宮(永瀬正敏)にあいさつに出向くが、ニベもなく断られる。長官視察は「ロクヨン」捜査官激励のためだったが、子供を亡くし、妻にも先立たれた雨宮にはもはや何の意味もなかった…。 三上の苦闘が複雑な警察内部の象徴する。彼は優秀の刑事警察の捜査官だったが、人間関係のあつれきから警務に飛ばされ、畑違いの広報官として、県警記者クラブを相手にする日々。交通事故の加害者を匿名で発表したことから記者クラブから突き上げられる。
★広報官・三上、孤立無援の闘い
現場を離れた刑事はムナしい。刑事への未練を押し隠し、諏訪(綾野剛)や美雲(榮倉奈々)ら広報室スタッフと仕事に精を出すが、邪魔するかのようにあちこちから横やりが入る。「ロクヨン」捜査の班長で現刑事部捜査一課長・松岡(三浦友和)をはじめ、刑事部長・荒木田(奥田瑛二)、県警本部長(椎名桔平)に、「上ばかり見ている」直属上司の警務部長・赤間(滝藤賢一)まで、豪華キャストで固めた周りは敵ばかり…。ミスが許されないのはどこも同じだが、折しも広報では匿名問題がこじれ「長官視察」の一大行事も「ボイコット」される…。
前編の見どころは広報官・三上と県警記者クラブの激突模様だ。幹事社の東洋新聞キャップ秋川(瑛太)とのやり取りはリアリティー満点。「本部長に直訴」の強硬手段を企てる秋川たちを体を張って止める三上。「ロクヨン」模倣犯事件の発表まで匿名のままで「報道協定」締結を提案したからたまらない。激昂した記者クラブは広報と決裂する…。
警察内でこんな争いがあると知るのが“記者の目”作家の真骨頂だ。急先鋒・東洋新聞懐柔のために三上の取った方法(餞別)も元ブンヤとしては「ありそうな話」で納得だったが、あっさりかわされるところもまた「さもありなん」だった。 最近、充実しきりの佐藤浩市がまさしく全開。苦渋を全身ににじませつつ、与えられた職務に一途に打ち込む姿は働く男の理想像ではないか。三上が権威と信頼を失った警察の「最後の拠り所」との希望を抱かせる。
“男の世界”はどこもだろうが、権威が求められる警察社会はおそらくどこよりも厳しい、と痛感する。上意下達、命令には絶対服従という過酷な階級社会。加えてキャリアとノンキャリアの確執などなど。昨今の映画、テレビでは経験と足で捜査するたたき上げの刑事は大抵、キャリアのエリート上司に阻害される。
松本清張原作の名作『張込み』(58年)のベテラン刑事・宮口精二と新米・大木実のコンビ、同じく清張原作『砂の器』(74年)のベテラン・丹波哲郎と新米・森田健作コンビなど今では望むべくもない“理想の刑事像”だろう。
広報官・三上と記者クラブの対決が目を引く前半から、後半は“本題”模倣犯の「ロクヨンそっくり」の動きは緊迫感いっぱい。「ロクヨン」の時、警察がひた隠しにした“失態”とは何か? 長官視察の真の目的とは何か?
次々に明らかになる“真相”に、三上も見る側も引き込まれ、警察の実態を目の当たりに出来る。 “このミステリーがすごい!”2013年版の第1位に輝いたのは、大いに納得!
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://64-movie.jp/
(C)2016映画「64」製作委員会