原題 | 45YEARS |
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制作年・国 | 2015年 イギリス |
上映時間 | 1時間35分 |
原作 | デヴィッド・コンスタンティン(「In Another Country」) |
監督 | 監督・脚本:アンドリュー・ヘイ |
出演 | シャーロット・ランプリング,トム・コートネイ |
公開日、上映劇場 | 2016年4月9日(土)~シネスイッチ銀座、4月16日(土)~テアトル梅田、シネマート心斎橋、5月7日(土)~京都シネマ、5月~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開 |
受賞歴 | 第88回アカデミー賞®主演女優賞ノミネート、2015年ベルリン国際映画祭 コンペティション部門出品 銀熊賞(女優賞、男優賞)W受賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞2015 主演女優賞(シャーロット・ランプリング) |
~揺るぎないと信じた人生に波紋が広がる~
ケイトとジェフは,土曜日に結婚45周年のパーティを控えていた。月曜日にジェフに1通の手紙が届いたことから,人生にさざ波が起きる。ジェフは,1962年に27歳でクレバスに消えたカチャに思いを馳せる。ケイトは,初めて知ったカチャの存在に心穏やかではない。その怪訝な顔には仄かな不安が宿り,結婚前のことだと思いながらも心がざわつく。翌日,ジェフは,ケイトとの甘美な思い出に浸るが,真夜中にはカチャの写真を探し出す。
ケイトの友人リナは,生きている今が大事だと言う。だが,過去の幻影が今を生きるケイトに容赦なく覆い被さる。カチャの写真を見て居たたまれなくなり,ジェフが語るカチャとの思い出を怖い顔で聞いている。ケイトは,足掻けば足掻くほど絡め取られ,追い込まれる。その抜き差しならない心の動きを,シャーロット・ランプリングが精密に刻んでいく。木曜日の朝は,木々がざわついて落ち着かず,犬を散歩させるいつもの光景はない。
窓の外を見ているケイトを,窓の外からロングで映したショットは,その存在の切なさを痛感させる。それは,ジェフが余りにも誠実で一途な人柄で,優しい嘘を付けないことによって増幅される。カチャが死ななければ結婚していたと言いながら,ケイトとの結婚が人生最大の選択だったと言う。そこに矛盾はなくとも,ケイトの知らない夫の姿があった。人生の深淵を覗いた悲しみと,それでも生きていることへの愛しさが,ケイトを包む。
パーティではケイトがよく口ずさんでいたプラターズの「煙が目にしみる」が流れる。45年前の結婚式で流れたこの曲でダンスをする2人の姿が,ホログラムのようにスクリーンに浮かび上がる。飄々と人生を楽しんでいるようなジェフを,何となく稚気を帯びた調子でトム・コートネイが造形していた。肩の力が抜けないようなケイトとの対比に,クレバスのような裂け目が重なり,45年を費やしてもなお深く底の見えない人生の苦さがある。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://sazanami.ayapro.ne.jp/
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