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『エスコバル/楽園の掟』

 
       

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作品データ
原題 Escobar:Paradise Lost 
制作年・国 2015年/フランス・スペイン・ベルギー・パナマ合作
上映時間 1時間59分
監督 監督・脚本:アンドレア・ディ・ステファノ  製作総指揮:ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ハッチャーソン  音楽:マックス・リヒター
出演 ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ハッチャーソン、クラウディア・トレイザック、ブラディ・コーベット、カルロス・バルデム
公開日、上映劇場 2016年3月12日(土)~シネマサンシャイン池袋、テアトル梅田、シネマート心斎橋、T・ジョイ京都 ほか全国公開

 

~南米のゴッドファーザー:エスコバルの実像に迫る戦慄のクライムアクション~

 

コロンビアのパブロ・エスコバルという麻薬王をご存じだろうか?1980年代の「メデジン・カルテル」や「麻薬戦争」の中心にいた人物である。コカイン製造・密輸・宝石加工密売などで巨万の富を築き、世界7番目の大富豪にまで上り詰めた貧困層出身の人物。相手が誰であろうと邪魔者や敵は容赦なく消す。大統領候補や裁判官や検事総長だろうが、大臣でも何でも旅客機ごと警察署ごと爆破してしまう大胆さは、他に類を見ない。悪魔も恐れるほどの残忍さを見せる反面、ファミリーに対しては優しく大事にする極端な二面性を持つ、南米のゴッドファーザーと呼ばれる所以だ。また、病院や学校を建てたり貧しい人のための家を建てたりして、広く人民に慕われた人物でもある。「世界で一番憎まれ、同時に、最も慕われた犯罪者」の光と影の実像を、エスコバルの姪と恋に落ちたばかりに地獄を見ることになるカナダ人青年の目を通して描かれる。
 


【STORY】
カナダ人サーファーのニック(ジョシュ・ハッチャーソン)は兄とその彼女と共に、楽園を求めてコロンビア西海岸の美しいビーチにやってくる。そこで、美しく健康的なマリア(クラウディア・トレイザック)と出会い、たちまち恋に落ちる。地元でも大人気のマリアの叔父エスコバル(ベネチオ・デル・トロ)にも紹介され、ニックはエスコバルのファミリーの一員として、「エスコバル王国」の豪勢な邸で歓待される。だが、ニックたちが海岸で小さな店を出したことに絡んできた地元のチンピラらたちが焼き殺される事件が起きる。エスコバルがニックのために部下にやらせた報復だった。その残忍性に恐れをなしたニックの兄はエスコバル一家との関わりを危惧するが、ニックはマリアを愛するあまりファミリーとの関わりを絶つことができなくなっていた。


escobar-500-2.jpgTVニュースを通じて、エスコバルと敵対する政府高官や大臣、司法関係者などが次々と暗殺されていくのを知る。アメリカFBIもCIAも追う麻薬王エスコバルの真の顔が次第に明らかになっていく。コロンビア政府は最初反政府ゲリラ打倒のためにエスコバルを利用していたが、政府が制御できないくらい拡大したため、エスコバルの暴力組織と麻薬カルテル壊滅作戦が決行される。いよいよ追い詰められたエスコバルは、莫大な財産を分散して隠すため、十数人の親族を使ってトラックで各地へ運ばせる。マリアと共にカナダに逃げようとしていたニックもその任務に就かされ、秘密保持のため従事者はすべて殺されていく。組織からも警察からも追われるニック。誰ひとり味方のいない中、ニックは地獄の逃避行から生還できるのか? …決してエスコバルからは逃げられない!
 


escobar-500-1.jpg家族を愛して止まない良き夫、良き父、母親を敬愛する良き息子でもあったエスコバル。貧しい人々のために病院や学校や住宅まで建ててくれる気前のいい人。人心を掴み、収賄で権力をも牛耳る、まるで独裁者だ。サッカー場やディスコまで完備した豪華刑務所「ホテル・エスコバル」を自ら建てて、逮捕後はそこに収監される。映画はそこまでを描いているが、その後、刑務所内から指示を出して組織を動かし、1年後脱走して政府を相手にテロを再開。50億ペソ(約8億3千万円)という巨額の賞金が懸けられ、身内の裏切りから1年半後に銃殺される。44歳だった。


『チェ 28歳の革命/39歳 別れの時』で25㎏減量して革命の勇士チェ・ゲバラを演じたベネチオ・デル・トロが、本作ではかなり増量して冷酷な麻薬王の凄みを出している。彼の監督作『セブン・デイズ・イン・ハバナ』('12)に主演したジョシュ・ハッチャーソンと再びタッグを組み、本作では共に製作総指揮を務めている。優しい良識的なニックの目を通して描かれるエスコバルという犯罪者の実像。対称的な二人の俳優によって浮き彫りになっていく。


それにしても、こんな人物が実在したとは……戦争や紛争で数万単位の虐殺を行う者もいるが、麻薬王として数千人を様々な方法で殺害するとは、コロンビアという国がいかに混迷の時代を経て来たかがよくわかる。かつてインカ帝国では神がもたらしたコカの葉を、滋養強壮剤として人民に与えていたという。今でもコロンビアだけでなくペルーやボリビアなどアンデス山中ではコカの葉を常用していて、エスコバルも国の特産物であるコカを輸出しているだけだと身内は思っていたようだ。エスコバル亡き後、麻薬密輸の中心はメキシコへと移っていく。アメリカという巨大市場がある限り、麻薬戦争に終わりはない。この映画の恐怖体験は、決して絵空事ではない現実問題として迫るものがある。

(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://www.movie-escobar.com/

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