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『母よ、』

 
       

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作品データ
原題 Mia madre 
制作年・国 2015年 イタリア・フランス 
上映時間 1時間47分
監督 監督・脚本:ナンニ・モレッティ
出演 マルゲリータ・ブイ、ジョン・タトゥーロ、ナンニ・モレッティ、ジュリア・ラッツァリーニ
公開日、上映劇場 2016年4月2日(土)~テアトル梅田、4月23日(土)~シネ・リーブル神戸、順次~京都シネマ ほか全国順次公開

 

~監督の実体験を下敷きに、人生の可笑しみを描いた家族ドラマ~

 

イタリアの名匠ナンニ・モレッティ監督が、「ローマ法王の休日」の編集中に亡くなった母への思いを込めて描いた新作は、切実に胸に響くものがあり、深く心揺さぶられた。人生の終わりを迎えつつある母とどう向き合えばいいのか…。主人公と家族の姿を見つめるうち、自らを重ね観ていた私は、母(幸いにも健在だが)への感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。ついでに白状すれば、同じくらい反省もしたのだけれど。


hahayo-500-1.jpgイタリアを代表する名女優マルゲリータ・ブイが、役名もマルゲリータで主人公の映画監督に扮した。脚本を書き、主演もするモレッティ監督は、自身で演じることもできたはずなのに、あえて妹というキャラクターを創造し主人公にしたのはなぜか? 仕事人間の妹を至近距離で見守る、心優しき兄ジョヴァンニなる“理想の息子”像を演じたモレッティ監督の心情にも寄り添いつつ、さまざまに思いを巡らせてしまう。


hahayo-500-3.jpgバツイチで仕事漬けの毎日をおくる映画監督のマルゲリータ。アメリカから主演俳優バリー(ジョン・タトゥーロ)を招いた撮影現場と、母を見舞う病院の往復で毎日くたくた。母への差し入れに惣菜をテイクアウトするが、兄の手作りの夕食に気が引けて、こっそりと持ち帰る…。こうした、誰しもが多かれ少なかれ経験したことのある、そして記憶にはのぼらない日々の些細なディティールを積み重ねて主人公の内面を照射する。身も心も疲れ切っていて眠りが浅いマルゲリータは、母の病状が悪化するにつれ良くない夢ばかりを見てしまう。不安や心配が募る彼女の心情を映した夢のシーンでは、忘れがたい情景や言葉たちがせり上がってくる。マルゲリータに「もう少し、軽めのタッチの作品を撮ったほうが良い」と助言するのは兄で、モレッティの自虐的なユーモアや独自の映画哲学が時折、顔をのぞかせる。


hahayo-500-4.jpgマルゲリータには、母が回復する見込みはないという主治医の言葉が飲み込めない。母に苛立ちをぶつける夢から飛び起きれば、自宅の床は水浸し。バスルームからあふれ出た水を拭きはじめるが、ままならないことばかりで泣けてくる…。現実に向き合う覚悟もできていないうえに、兄が1か月前から休職していたことや娘が失恋したこと、家族の何ひとつも知らないわが身が不甲斐ない。少しずつ弱っていく母に混乱し、いよいよ迷走するマルゲリータは、自分から別れを告げた恋人を呼び出して「いつも不満のかたまりで、自分勝手な女だ」となじられる始末。


hahayo-500-2.jpg難航する撮影。映画を救いたいマルゲリータは、バリーを夕食に招く。「役者は役に寄り添うべき(モレッティ監督の持論)」で、「女性(監督)には逆らわないこと。常に彼女は正しいから」とマルゲリータをからかう元夫、娘とともに、家族団らんのテーブルでくつろぐバリーと打ち解け、穏やかな笑顔と自信を取り戻す。一方、住み慣れた自宅に帰るなり、普段の生活を取り戻そうとする元教師の母。マルゲリータに心配をかけまいと気丈に振る舞う親心と、1日でも長く生きてほしいと望む娘の気持ち…。互いを思いやって空回りする親子の愛を、いつかのデジャヴのように思って泣けそうになる。なにをやってもうまくいかない苛立ち、人生の不平不満で苦しかったのだと認めて。

(映画ライター 柳 博子)

公式サイト⇒ http://www.hahayo-movie.com/

(C)Sacher Film . Fandango . Le Pacte . ARTE France Cinema 2015

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