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『家族はつらいよ』

 
       

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作品データ
制作年・国 2016年 日本 
上映時間 1時間48分
監督 監督:山田洋次  脚本:山田洋次・平松恵美子  音楽:久石譲  撮影:近森眞史
出演 橋爪功 吉行和子  西村雅彦 夏川結衣  中嶋朋子 林家正蔵  妻夫木聡 蒼井優 小林稔侍 風吹ジュン 中村鷹之資 丸山歩夢 笹野高史 木場勝己 笑福亭鶴瓶(特別出演)
公開日、上映劇場 2016年3月12日(土)~全国ロードショー

 

~おやじの危機=“三世代家族”のてんやわんや~

 

いつも横暴なふるまいの平田家の主・周造(橋爪功)が大慌てした。もの静かな妻・富子(吉行和子)が突然持ち出したのは思いもかけない「離婚届」。まさか、なんで今ごろ…。


kazokuha-500-1.jpg『東京家族』(13年)と同じ顔ぶれによる三世代同居家族、にぎやかないつもの風景…長男・幸之助(西村雅彦)と妻(夏川結衣)、実家に帰るなり「今度は絶対離婚する」と大騒ぎの長女・成子(中嶋朋子)たちも、母の突然の反乱に大慌て。今も両親と同居している次男・庄太(妻夫木聡)だけは、恋人の憲子(蒼井優)に長年の思いをようやく伝えることが出来、独り立ち(引っ越し)の準備に大忙し。


「冗談だろ」と再確認する周造に、富子は「いいえ、本気です」ときっぱり。両親の異常事態に驚いた子供たちは解決策を見いだそうと、若い庄太と憲子まで巻き込んで家族会議を開く。  隠居生活に入った周造は仲間とゴルフざんまい、帰りに美人女将・かよ(風吹ジュン)の居酒屋でうっぷん晴らしをして帰宅する毎日。富子も近頃は「小説を書くため」創作教室に通い始めていた。「周造の浮気が原因か」と勘ぐった子どもたちは、アヤしげな探偵(小林稔侍)を雇い、調査を始める…。


kazokuha-500-2.jpg松竹ホームドラマは長い間、日本映画の屋台骨を担う、貴重な財産だった。輝かしい伝統を守ってきたのは創業120年を迎える老舗・松竹。エース・山田洋次監督が新たに手がけた家族映画は昔ながらの喜劇だが、そこに家族であり続けることへの疲れもにじませた。おかしいけれど、家族のてんやわんやには悲哀も漂った。


喜劇『男はつらいよ』シリーズ終了から20年、思いがけない平田家の“離婚騒動”は現代の家族のあり方を浮き彫りにする。何気ない日常の暮らしこそが“何よりの宝物”とは「小津映画」以来の松竹ホームドラマの基本テーゼ。この映画でも小津監督の名作『東京物語』の名場面が何度も挿入され、そこに時代の流れがくっきりと見えた。実の子以上に義理の両親を温かくもてなした“次男の嫁・紀子(原節子)”は、家族以上に人としてのつながり、人を思いやることの大切さを表した。


かつて日本の家庭では許された“主の傍若無人”も、現代では妻から断罪される。無言のうちにお互い理解し許しあえたのは、もう過去のものになった。未来の家族を築き上げるのは次男の庄太と憲子。若いカップルに期待を寄せて、新しい時代の家族のありようを見守りたい、そんな主張が聞こえた。

(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://kazoku-tsuraiyo.jp/

(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会

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