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『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』

 
       

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作品データ
原題 IRIS 
制作年・国 2015年 アメリカ 
上映時間 1時間20分
監督 監督・撮影:アルバート・メイズルス(『ローリング・ストーンズ・ギミー・シェルター』)
出演 アイリス・アプフェル、カール・パテル
公開日、上映劇場 2016年3月5日(土)~角川シネマ新宿、テアトル梅田、MOVIX京都、3月19日(土)~角川シネマ有楽町、シネ・リーブル神戸 他“元気がもらえる”ロードショー

 

~アイリスに学ぶ、価値のある積極的な生き方とは?~

 

最近、元気でオシャレなシニアを主人公にした映画が増えてきたが、アイリス・アプフェル94歳の今を活写したドキュメンタリー映画がこんなにも刺激と興奮をもたらせてくれるとは思いもよらなかった。大きくて丸い黒縁のロイドメガネにシルバーヘア、大胆な色と形のアクセサリーの重ね着け、「死者も目が覚める」と自らも豪語する強烈な個性の持ち主のアイリスは、ニューヨークで100歳になる夫と二人で暮らしている。ハイセンスなシニアの魅力を捉えた『アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生』でも証言者の一人として登場していたが、今なおプロフェッショナルな存在として注目され、有名デザイナーやマスコミ界から信頼されている。94歳にして強い影響力を持つ彼女の多忙な日常から、我々が得られる教訓と勇気は測り知れないものがある。


iris-500-1.jpgアイリス・バレル・アプフェルは、1921年にニューヨークはクイーンズで、弁護士でブティック経営者の母と、インテリア装飾家の父の間に一人娘として生まれる。センスの良さとビジネス感覚の鋭さを両親から受け継ぎ、20代でインテリアデザイン業を始める。27歳で広告会社のエグゼクティブだったカール・パテルと大恋愛の末に結婚。その後、夫婦でヨーロッパへ買い付けに行ったり、古典柄の生地を再生させたりして、ホワイトハウスをはじめセレブ御用達の装飾家として活躍する。現在100歳になる夫は、「結婚して退屈したことはない。子供みたいなアイリスとまた生きたい」と言う。アイリスもまた、「料理もできる優しい夫よ」と常に夫への気遣いをのぞかせる。


iris-500-2.jpgファッション界でその名が知れるようになったのは、なんと80歳になってから。メトロポリタン美術館で急遽中止になった展覧会の代理として、アイリスが保有する衣裳や小物グッズ類などのコレクションをアイリス自らが展示デザインした展覧会だった。それが、メトロポリタン始まって以来の大盛況を博し、「80歳で新人だなんてステキでしょう?」。以降、ファッション界のアイコンとして影響力を持つようになる。デパートやTVショッピングやファッション雑誌など、アイリスのセンスやコメントが消費者の信頼を集め、彼女が推薦するものは即完売するほど。94歳の現在でも、その影響力は大きい。


アイリスのこだわりは、別に高価なものばかりではない。「ハリー・ウィンストンより、4ドル程度のアクセサリーに胸が躍るの」とか「値段交渉には美学がある。むやみに値切る訳ではない。でも値切らないと逆に失礼な場合もあるのよ」と。大胆なアクセサリーの重ね着けや、アジアやアフリカなどのハンドメイドな生地を活かしたコーディネイトなど、インテリア業の頃からのセンスが光る。「人の目を気にするのではなく、自分のために服を着る」とか「毎日無難なことを繰り返すくらいなら、いっそ何もしない方がいい」とまあ、トラッド派の筆者にとっては耳の痛いことばかり。


iris-500-4.jpgこれほど辛辣なコメントで人を驚かせているが、決して他人のセンスをけなさない。センスの悪い人を見ても、「センスがなくても、その人が幸せならいい。皆好きな服を着るべきだもの」と。決して人と同じ格好をしないのは、「それは自分の意見を持つことだから」と自信を持って生きている姿勢が窺える。アイリスが美容整形に興味がない理由は、「美しさだけで生きてきた人の老後は寂しいものよ」。「美人でなくて結構よ。私みたいな女は、努力して魅力を身に付けるの。色々な事を学び個性を磨くのよ」。この格言は覚えておきたい。


膨大なコレクションを少しずつ整理しながら大学や美術館へ寄付していくアイリス。「寄贈品を選ぶのはとても辛いわ」と言いながら思い出に浸る。すべてあの世に持って行ける訳ではないので、コレクションを活かすためにも寄贈するしかない。アイリスの生き方はとても真似のできるものではないが、人目を気にするあまり個性を無くしてしまっているような気がして反省することしきり。物よりセンスを磨くこと、もっと積極的に人生を楽しむことこそ、価値ある生き方なのかも

(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://irisapfel-movie.jp
(c)IRIS APFEL FILM, LLC.