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『スポットライト 世紀のスクープ』

 
       

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作品データ
原題 Spotlight 
制作年・国 2015年 アメリカ 
上映時間 2時間08分
監督 監督・脚本:トム・マッカーシー、脚本:ジョシュ・シンガー
出演 マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムス、リーヴ・シュレイバー、ジョン・スラッテリー、スタンリー・トゥイッチ、ビリー・クラダップ
公開日、上映劇場 2016年4月15日(金)~TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、MOVIX京都、OSシネマズミント神戸 ほか全国ロードショー
受賞歴 第88回(2016)アカデミー賞 作品賞、脚本賞 受賞

 

~健在!? “社会の木鐸”  ブンヤの正義~

 

強大な権力を相手に闘い、社会悪を断罪する…ジャーナリズムはかくあるべしという理想形を見せてくれる、近年珍しい“良心作”。


マスコミの王座をテレビに明け渡し、ネットの普及でさらに崖っぷちに追い詰められた紙媒体(新聞)の逆襲…かつて新聞は大衆のために“正義の戦い”を繰り広げた。テレビ創成期、NHKドラマ「事件記者」が描く“ブンヤ”に憧れた遠い記憶が甦った。実話に基づく映画『スポットライト~』の主役「ボストン・グローブ」紙のターゲットは、政府以上の難物、カトリック教会だ。
 

2001年夏、アメリカ東部の新聞社ボストン・グローブ紙に新編集局長バロン(リーヴ・シュレイバー)が着任。マイアミから来て地元にしがらみのない彼は、カトリック教会の権威にもひるむことなく“神父による性的虐待事件”徹底取材の方針を打ち出す。極秘調査を命じられたのは特集記事欄「スポットライト」チーム、デスクのロビー(マイケル・キートン)を筆頭に、若き熱血漢マイク(マーク・ラファロ)、紅一点サーシャ(レイチェル・マクアダムス)に、情報分析のマット(ブライアン・ダーシ-・ジェームズ)ら4人の精鋭記者たち。彼らは口の重い被害者や弁護士たちに地道な取材を重ね、大勢の神父が同様の罪を犯している恐るべき実態を暴いていく……。


spotlight-500-1.jpg仏教国・日本では分かりにくいが、カトリック信者が圧倒的に多いアメリカで“カトリック教会の不祥事”など、あってはならない犯罪。それをマスコミが暴くことがどれほど困難か、容易に想像がつく。政府の不祥事以上に報道が困難だったに違いない。これほど真っ当な正義感に貫かれた映画も珍しい。


このジャンルにはウォーターゲート事件を扱い、大スクープをものにした2人のワシントン・ポスト記者の活躍を描いた『大統領の陰謀』(‘76年=アラン・J・パクラ監督)がある。だが、この映画と『スポットライト 世紀のスクープ』では取材方法が正反対だった。見た人はお分かりだろうが『大統領の陰謀』の記者には“ディープ・スロート”なるニュースソースがいた。政府中枢にいたと思われる“ネタ元”のリークから取材し、報道していった。


優秀な記者は独自の取材方法を持っているもので、政治、経済記者は主に担当分野(取材先)で“自分だけのネタ元”を作ることが大事とされる。“サツ回り”中心の社会部記者もその点では同じ。政治部に似ているプロ野球担当も球団内部の独自のソースが大事になる。時には、ネタ元を先輩記者から引き継ぐこともある。


こうした“リーク”取材が危険なことは、先ごろ世間を騒がせた“誤報事件”などでも知られる通り。相手の都合のいいように記事を誘導される落とし穴がある。『大統領の陰謀』は、大スクーブにまで結び付いたが、誘導の危険性をはらんではいた。本作はこうした手法とは違い、今では主流とも言うべき「調査報道」によるスクープという点に価値がある。難敵カトリック教会を相手にするには、幅広く取材するしかなかった。
 

原告神父・弁護士の“守秘義務”の壁を乗り越え、教会の文書隠しも突破して、疑惑神父87人を洗いだし、さらに教会の隠ぺいシステムまでを暴く“世紀の快挙”に結実した。だが、調査が大詰めに差しかかった時、9・11同時多発テロが勃発。全米で“反イスラム”の気運が盛り上がり、カトリック断罪の取材は一時中断を余儀なくされる…。 


spotlight-240-pos.jpg人間ドラマ『扉をたたく人』(07年)でインディペンデント・スピリット賞の監督賞を受賞したトム・マッカーシー監督。彼のまっすぐな姿勢に感心する。関係者への入念な調査に裏付けられた緻密な脚本と、事実に忠実な映像化。熱血ドラマになるところを敢えて避けた作りが静かな興奮を盛り上げる。警察や弁護士が主役のドラマでも、内部に敵がいる複雑な現代社会。だが、このドラマで記者たちは「ただ真実を追い求め」「被害に遭っている子供たちのため」にひたすら報道に邁進する。


実在の記者たちを“ヒーロー”と呼ぶマッカーシー監督。その精神が貫かれた正義の映画には、価値観が乱れきった現代、混乱のアメリカ社会にあっても、報道、ジャーナリズムはかくあってほしい、かくあらねばならないという、祈りにも似た熱い願望と強い信念に支えられて出来上がった“稀有な一編”に違いない。   

(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://spotlight-scoop.com/

Photo by Kerry Hayes © 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

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