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『不屈の男 アンブロークン』

 
       

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作品データ
原題 Unbroken 
制作年・国 2014年 アメリカ 
上映時間 2時間17分
原作 ローラ・ヒレンブランド “Unbroken” 
監督 監督:アンジェリーナ・ジョリー  脚本:ジョエル&イーサン・コーエン、リチャード・ラグラヴェネーズ、ウィリアム・ニコルソン
出演 ジャック・オコンネル、ドーナル・グリーソン、MIYAVI、ギャレット・ヘドランド、フィン・ウィットロック
公開日、上映劇場 2016年3月5日(土)~シネマート心斎橋、布施ラインシネマ、3月19日(土)~京都シネマ、神戸アートビレッジセンター、4月2日(土)~塚口サンサン劇場 ほか全国順次公開

 

~凄いやつだ! 精神(こころ)折れない男~

 

人間は、どこまで拷問に耐えられるか?  女優アンジェリーナ・ジョリーの監督第2作は「苦痛に満ちた状況にあってなお希望を失わない男」ルイ・ザンペリーニの物語。過酷極まりない拷問、肉体に痛みを感じるほどのハードな描写は、もはやサド・マゾの世界に近い。


unbroken-500-1.jpgルイは1936年のベルリン五輪5000㍍で驚異的なタイムをたたき出し一躍名を上げた。「次の目標は当然、東京五輪(1940年)」だった。イタリア移民の子として育った彼は、第2次世界大戦で空軍爆撃手として従軍するが、飛行機が砲撃を受けて海に不時着。漂流すること47日。艱難辛苦の末、結局、日本軍に見つかり、捕虜として東京・大森の収用所に入れられる。東京五輪出場を夢見ていたルイには皮肉な“夢の実現”だった。


収用所生活は過酷そのもの。とりわけ、精神のバランスを欠いた収用所長・渡辺伍長(MIYAVI)のいじめは度を越した。捕虜全員に一発ずつ「ルイの頬を殴れ」という命令には慄然。さすがに仲間たちは抵抗するが、ルイは自分から「俺を殴れ」と挑発。彼への殴打は日が暮れるまで続いた…。


unbroken-500-2.jpg日本軍が非人間的な拷問をしていたことは何度も映画になっている。最も強烈だったのは名匠デヴィッド・リーン監督の『戦場にかける橋』(57年)。日本軍人・早川雪洲と英軍人アレック・ギネスの対決が記憶に残る。


“日本軍人の憎悪”を象徴するようなハリウッドの名悪役・雪洲の憎々しい表情。対するギネスは、理知的な表情を変えることなく、冷静に拷問に耐え、動じないイギリス人の忍耐が感動を誘った。列車爆破に命をかけた米軍の活躍と比較するまでもなく、日本が“加害者”であったことの重みをズシリと感じさせた。  この“対決模様”は、26年後の『戦場のメリークリスマス』(83年) にまでつながる。ジャワの捕虜収用所、収用所長・ヨノイ大尉(坂本龍一)は粗暴なハラ軍曹(ビートたけし)に捕虜の管理を任せていたが、英軍セリアズ少佐(デヴィッド・ボウイ)が収用所に来てから、人間関係が微妙に変わる。日本軍人を象徴する硬派ヨノイ大尉の変化がこの“異色の戦争映画”のテーマでもあった。


unbroken-500-3.jpg渡辺軍曹には憎悪だけしかなかった。連合軍の爆撃があり、捕虜たちは「勝利は近い」と喜ぶが、ルイたち一部の捕虜は遠い新潟県・直江津収用所へと移送される。彼らを待っていたのは、軍曹に昇進したあの渡辺だった…。


究極の拷問は180㌢の「大木を頭上まで持ち上げる」“不可能指令”だ。しかも渡辺は「落としたら射殺せよ」と衛兵に厳命する…。   五輪競技の重量挙げでも失敗は少なくない。失敗=射殺なんて、これ以上、過酷な仕打ちがあろうか。これはもう、アレック・ギネスやデヴィッド・ボウイを超える残虐の極致だろう。  「手に汗」を越えて、見る者の体にまで力が入る場面。彼が「エイヤ」とばかり、頭上高く持ち上げる場面には人間の底力=精神力という不可解なまでの“折れない精神”を感じさせた。


「決して折れることなく」終戦まで生き延びたルイは“日本での五輪”参加という見果てぬ夢を果たす。ホンマ、よお頑張った。

(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://unbroken-movie.com/

(c)2014 UNIVERSAL STUDIOS

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