原題 | Marguerite |
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制作年・国 | 2015年 フランス |
上映時間 | 2時間9分 |
監督 | 監督・脚本:グザヴィエ・ジャノリ(『ある朝突然、スーパースター』) |
出演 | カトリーヌ・フロ(『譜めくりの女』『地上5センチの恋心』『大統領の料理人』)、アンドレ・マルコン、ミシェル・フォー、クリスタ・テレ、デニス・ムプンガ、シルヴァン・デュエード、オベール・フェノワ、ソフィア・ルブット、テオ・チョルビ他 |
公開日、上映劇場 | 2016年2月27日(土)~シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA、3月12日(土)~シネ・リーブル梅田、4月2日(土)~シネ・リーブル神戸、そのほか京都シネマなど 全国順次公開 |
~“音痴の歌姫”が隠し持っていたもの、その切なさに打たれる~
得々と声を張り上げて歌い出した人が、まるで調子っぱずれで音をはずしていたとしたら…たぶん、ほとんどの者は互いに目配せし、笑いをかみ殺すことだろう。あるいは驚きとともに爆笑しかねない。この映画の男爵夫人が歌い始めた時、私もついくすりと笑ってしまった。しかし、彼女が歌うシーンが重なるにつれ、少しも笑えなくなってきた。あまりにけなげで、音楽に対して純朴で、そして哀しくて。
1920年のパリ郊外、ヒロインのマルグリット・デュモン男爵夫人は自邸で恒例の慈善音楽会を開いていた。美しい女声の二重唱などの後、主催者であるマルグリットが堂々と登場し、第一声を発したとたん、初めてサロンに参加した新聞記者ボーモンは呆気にとられる。なんとマルグリットは桁外れの音痴だったのだ。しかし、当の本人は自分が音痴だとは全く気づいていない。いつもながら偽善的な拍手や喝采を送る人々に囲まれ、さらに、ボーモンが揶揄をこめてマルグリットの歌を絶賛する記事を掲載したため、マルグリットの“歌いたい気持ち”にますます拍車がかかり……。
この物語には、実在したモデルがある。アメリカに住んでいたフローレンス・フォスター・ジェンキンスで、レコードを出し、1944年にはニューヨークのカーネギーホールでリサイタルも開いたという。音痴だったのになぜか人気があったという彼女の歌声をたまたまラジオで聴いたグザヴィエ・ジャノリ監督が、舞台をフランスに移して映画化した。マルグリットを演じたカトリーヌ・フロがとにかく凄い。音痴ぶりをアピールしながらアリアを歌うというのは、けして簡単なことではないだろうと思うし、音楽や夫との関係性で彼女が見せる一途さの表現にも心を奪われる。
また、彼女に向かって真実を言えない人々についても考えさせられる。マルグリットがひどく傷つくだろうと思って言えない人、蔭でせせら笑っているのに言わない人。特に、前者は悩み抜くだろう、この映画に出てくる音楽教師のように。それから、マルグリットを写真に撮る執事の存在も気になった。「誰にマダムを嗤う権利がある?」とか言いつつ、やはり彼もけして真実を突かないのだが、マルグリットを見守る瞳に宿るのは、恋愛という範疇を超えた愛のように感じられる。そして、執事は最高の一枚を残すためシャッターを切る。その写真は、オペラのヒロインと化したマルグリットの姿によって、彼女がなぜそこまでして歌いたかったのか、その秘密を明かすのだ。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://www.grandemarguerite.com/
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