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『キャロル』

 
       

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作品データ
原題 CAROL 
制作年・国 2015年 アメリカ 
上映時間 1時間58分
原作 パトリシア・ハイスミス(「キャロル」河出文庫)
監督 トッド・ヘインズ(『ベルベッと・ゴールドマイン』『エデンより彼方に』)
出演 ケイト・ブランシェット(『エリザベス』『ブルージャスミン』)、ルーニー・マーラ(『ドラゴン・タトゥーの女』)、サラ・ポールソン、カイル・チャンドラー、ジェイク・レイシー(『クーパー家の晩餐会』)
公開日、上映劇場 2016年2月11日(木・祝)~TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)ほか全国ロードショー

 

美しい革の手袋。息でくもる車窓。はらはらと舞い散る白い雪。

匂い立つばかりの美しさを醸す愛のドラマ。

 

ニューヨーク。クリスマスを控えたある週末。地下鉄から吐き出された人混みの中、一人の男がホテルへとたどり着く。冷えたからだを温めるように1杯あおった彼は、なにげなく見やったレストランに顔見知りの若い女性テレーズをみとめ近づく。彼女と向かい合う金髪の女性キャロルは、彼がテレーズに声をかけた一瞬、表情をこわばらせた。そして不意に用を思いだした風をよそおい、その場の礼儀を欠かない程度の速さで優雅に立ち去るキャロルは、さよならの言葉の代わり、テレーズの肩にそっと触れる……。2人の会話はひと言ももれ聞こえはしない。とても謎めいていて、暗示的な冒頭からしてスリリング。ほんの少し時間を巻き戻せば、まるで2人の会話が想像できるとでも言わんばかりに「運命の出会い」が描かれる。


carol-500-3.jpgデパートのおもちゃ売り場で働くテレーズは、娘のクリスマス・プレゼントを買い求めにやってきた美しいキャロルに釘付けになる。そんな自分の反応にとまどうテレーズは、ようやく我に返って、キャロルが手袋を置き忘れて行ったことに気づく…。大きな秘密を知ってしまったように心臓の鼓動が早まるのを、周囲に知られまいとするテレーズ。


carol-500-1.jpg愛される女性を演じ、写真家の夢を夢のままで終わらせようとしていた若く無垢なテレーズ。理想の妻を演じることに疲れ、離婚調停中のキャロル。美しい革の手袋を機に始まった2人の交流は、やがて互いをかけがえのない存在に変えていく……。トッド・ヘインズ監督が『エデンより彼方に』の50年代とは異なるアプローチで描いた映像美のエレガンスに思わずため息がもれる。ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの繊細な演技力は見事で、とりわけ2人が交わす「視線」には、心を射抜かれてしまうだろう。


carol-500-2.jpg本当の自分のままに生きることが許されなかった時代を舞台に、ひとが人を愛する美しさを鮮烈に描き上げた名品。原作は、ヒッチコック監督によって映画化された処女作『見知らぬ乗客』や『太陽がいっぱい』の成功によりサスペンス作家として脚光を浴びたパトリシア・ハイスミス。1952年、時代の偏見を避け別名義で上梓するも大反響を巻き起こした幻のベストセラー小説。

(映画ライター 柳 博子)

 公式サイト⇒ http://carol-movie.com/

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