原題 | 5 FLIGHTS UP |
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制作年・国 | 2014年 アメリカ |
上映時間 | 1時間32分 |
原作 | ジル・シメント著『眺めのいい部屋売ります』小学館文庫 |
監督 | リチャード・ロンクレイン |
出演 | モーガン・フリーマン、ダイアン・キートン、シンシア・ニクソン他 |
公開日、上映劇場 | 2016年2月13日(土)~テアトル梅田、109シネマズ大阪エキスポシティ、109シネマズHAT神戸、2月27日(土)~京都シネマ他全国順次ロードショー |
~住み慣れた我が家も夫婦の愛も「変わらない」がいいけれど・・・~
とかく家にまつわる話となれば、血なまぐさい展開になるケースを最近よく目にするが、この作品は我々が本当に身近に感じる家の売買を体感するような物語だ。しかも、引っ越しを決意した理由が「エレベーターがない」。足腰が弱ってきた親世代が戸建てからマンションに移ったり、子どもたちの近くに転居するのと同じようなことが、ニューヨークのブルックリンで40年仲睦まじく暮らしてきた夫婦にも起こっている。しかも、その老夫婦を演じるのはニューヨークがいかにも似合うダイアン・キートンに、画家で夫役というのがとても新鮮なモーガン・フリーマン!ニューヨークライフを垣間見ながら、転居狂想曲を覗いてみようじゃないか。
二人が暮らしてきた愛の巣は、マンハッタンとブルックリンを結ぶウィリアムバーグ橋のすぐ近く。リバービューで、屋上には家庭菜園、自分の長年愛用してきたアトリエを構えるアパートは、夫アレックス(モーガン・フリーマン)が転居を渋るのも大いに分かる。でも愛犬の足腰の衰え、そして子どもがいない二人の今後を考えると、妻ルース(ダイアン・キートン)は、今しかないとアレックスを説得。そこに親戚で不動産エージェンシーのリリー(シンシア・ニクソン)が何としてもこの物件売買を成功させようと、ノリノリで内覧会への手はずを進めていく。この3人の微妙なテンションのズレが、なんとも面白い。特に、シンシア・ニクソン演じるリリーのやり手エージェンシーの顔と、決断できない二人を見て焦るホンネの顔が交錯し、強烈な印象を残す。『セックス・アンド・ザ・シティ』で等身大の30代独身女性を演じてきたシンシア、まさにその後と言えるはまり役のキャラクターだ。
内覧会に訪れる人々の描写や、オークションのような不動産売買の入札の様子、そして橋上で起きたトラックの立ち往生がテロ事件と疑われる報道により緊張感が走る様子など、マンハッタンの住民目線を味わえるのも魅力的だ。でも、ずっと見ていたいと思わせるアレックスとルースのやり取りなしで、この物語は成立しない。当たり前のように暮らしていたアパートと、そこで積み重ねてきた夫婦の日々を思い出しながら、転居先を探し、吟味し、改めて何が二人にとって一番重要なのかを自問する。熟年夫婦にありがちな「言わなくても分かるだろう」ではなく、とことん話し合い、シンシアのようなプロに委ねきりにすることなく、二人で結論を出していく。観終わって、「本当にいい夫婦だな」と思わせるモーガン・フリーマンとダイアン・キートンのあ・うんの呼吸が心地よく、そして二人が納得して暮らす「家」は、夫婦に新しい歴史を刻むかのように見えた。
(江口由美)