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『最愛の子』

 
       

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作品データ
原題 DEAREST
制作年・国 2014年 中国=香港
上映時間 2時間7分
監督 ピーター・チャン
出演 ヴィッキー・チャオ、ホアン・ポー、トン・ダーウェイ、ハオ・レイ、チャン・イー、キティ・チャン他
公開日、上映劇場 2016年1月16日(土)~シネスイッチ銀座、1月30日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸他全国順次公開
 

~名匠ピーター・チャンが見据えた、親子の悲劇に潜む現代中国の闇~

爆買、PM2.5、中国株など、ここ数年来、中国や中国人の動向をさらりと眺めて想起されるイメージは危なっかしいぐらいの発展ぶりだ。だが、それがうわべだけのものであることは想像に容易い。本作は日本であまり触れることのない中国の子どもを巡る闇や農村部と都市部の格差に迫る一方、ヒューマンドラマとして非常に見応えがある仕上がりだ。監督は、『ラヴソング』、『捜査官X』の名匠、ピーター・チャン。香港出身のピーター・チャン自らプロデューサーも務めながら実話をもとに作り上げた作品は、登場人物の背景に現代中国の歪みを投影させながら、立場変われど止むことのない親の愛を映し続ける。
 
 
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深圳の下町でネットカフェを営むティエン(ホアン・ポー)。元妻ジュアン(ハオ・レイ)の元から帰ったまま遊びに出た3歳の息子ポンポンが突然失踪し、警察に捜索願を出すものの24時間以内は事件扱いできないと言われ、愕然とする。息子探しに奔走するも、手掛かりが掴めぬまま3年が経ち、屋台でなんとか生計を立てていたティエンのもとに、ついに目撃情報が寄せられ、ポンポンと再会を果たした。だが、ポンポンはティエンやジュアンのことを覚えておらず、逆に母親と名乗る女性、ホンチン(ヴィッキー・チャオ)が息子を返せと詰め寄るのだった。
 
 
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誘拐されたまま見つからない子どもが桁違いに多いことに衝撃を覚える一方、児童誘拐が長年大きな問題になっている中国で、初動のタイミングを逃す警察の動きにも驚かされる。昨年廃止が決定したものの、長年に渡り家族構造が歪む原因となった一人っ子政策が与えた影響も、物語の端々に浮かび上がっている。ティエンとジュアンが、我が子を探し周り、再会したときに息子がすっかり自分たちのことを忘れていたという辛すぎる事実は、本当に悲劇だ。でも、加害者と思われたホンチンも、自分が不妊であることを理由に夫が別の女に産ませた子どもと思いこまされ預かったポンポンを、我が子として育てていた。新しい名前を付け、立派な育ての親になっていたのだ。物語では、双方の立場で、子どもを失い、取り戻そうとする親の葛藤を鮮明に描写している。
 
 
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久しぶりに中国映画でこんな風景を見たというぐらい、ゴミゴミした雑踏の中、賑やかに人が行き交い、ケンカも繰り広げられる深圳の下町の描写も興味深い。一方、ティエンが暮らす下町の雰囲気と対照的なのが、元妻ジュアンの生活ぶりだ。高級車に乗り、キャリアウーマン風で、同じ田舎から出てきたという設定ながら、二人の格差は一目瞭然。これも、現代中国の知られざる一面なのか。さらに、ホンチンが住む山奥(安徽省)の農村部では、教育もまともに受けられない環境であることが感じ取れる。ホンチンが誘拐したのではないことを証言するよう頼んだ夫の元同僚の出稼ぎ労働者も、証言することで職を失い、街にいられなくなることを恐れる場面もあった。格差社会の中、子どもを探す親たちの格闘は、時にはしたたかで、時にはわが子の死を認めることでもう一人、子を授かる機会を得る辛い選択肢も選ばざるを得ない。特例が認められない層の前に、一人っ子政策が大きく立ちはだかるのだ。
 
中国四大女優と呼ばれるヴィッキー・チャオがノーメイクで演じたホンチンの必死な表情が、誰よりも強烈に頭に残った。そして、親目線で語られた物語を観終わったときに、ふと思う。一番の被害者、ポンポンは誰といるのが一番幸せだったのだろうかと。
(江口由美)
 
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