原題 | Suite Francaise |
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制作年・国 | 2014年 イギリス・フランス・ベルギー |
上映時間 | 1時間47分 |
原作 | イレーヌ・ネミロフスキー(「フランス組曲」白水社刊) |
監督 | 監督・脚本:ソウル・ディブ 共同脚本:マット・チャーマン |
出演 | ミシェル・ウィリアムズ、クリスティン・スコット・トーマス、マティアス・スーナールツ、サム・ライリー、ルース・ウィルソン、マーゴット・ロビー、ランベール・ウィルソン、トム・シリング |
公開日、上映劇場 | 2016年1月8日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(なんば、二条、西宮OS)、1月16日(土)~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開 |
~アウシュヴィッツに散った女性作家が書き遺した
フランス人の若妻とドイツ軍将校とのラブストーリー~
この映画は、第二次世界大戦中のフランスの田舎町を舞台に、夫の帰りを待つ若妻とドイツ軍将校との禁断の恋を主軸にした戦争に翻弄される人々の生き様を描いた感動作である。だが、この映画の凄いところはそれだけではない。39歳でアウシュヴィッツで散った原作者の人生とこの小説が出版されるまでの経緯はもっとセンセーショナルで、それを知った上で本作を観ると、小説に懸けた作家の想いがひしひしと伝わってくる。こうしてスクリーンで見られること自体が奇跡に思えてくるのだ。
原作者のイレーヌ・ネミロフスキーは、1903年に裕福なユダヤ人銀行家の娘としてキエフ(現在のウクライナ)に生まれ、1918年、ロシア革命から逃れて一家はフランスに移住。1929年、長編第1作「ダヴィッド・ゴルデル」を発表後は人気作家として活躍するが、ドイツ軍による占領下の1942年、疎開先のブルゴーニュの田舎町でフランス憲兵隊に捕えられ、アウシュヴィッツへ送られて39歳で亡くなる。夫ミシェルも同様の末路を辿り、遺された二人の娘との別れ際に、「決して手放してはいけないよ、この中には母さんのノートが入っているのだから」と言ってイレーヌのトランクを託す。無事に生き延びた二人の娘は辛い過去に触れたくないと60年以上もトランクを封印することになるが、ついに2004年未完の小説が出版され、たちまちベストセラーとなる。
フランス人の手によって捕えられアウシュヴィッツへ送られた原作者の想いや、娘たちに妻の遺稿を託した夫の想いが、映画化されることによって今ここに結実する。
【STORY】
1940年6月。ドイツに降伏したフランスはドイツの支配下に置かれ、パリから地方へ逃れる難民が急増。そんな中、フランス中部の町ビュシーに進駐したドイツ軍は民家に振り分けられて滞在することになり、戦地へ行った夫を姑と一緒に待つリュシル(ミシェル・ウィリアムズ)の邸にもブルーノ中尉(マティアス・スーナールツ)が犬をつれてやって来る。厳格な姑アンジェリ夫人(クリスティン・スコット・トーマス)が仕切る邸は大地主の家だが、小作人へ情け容赦ない取立てをしたり、食料を貯め込んだり、リュシルにもピアノを弾くことを禁じたりしていた。ただでさえ窮屈な生活の上に、ドイツ軍の支配下で緊張の日々を強いられる。町の人々も疑心暗鬼になり密告する者やドイツ兵に媚を売って食料を手に入れる者など、なりふり構わぬ行為が横行するようになる。
邸の中では、思いがけなくピアノが響いてくる。軍人一家に生まれ芸術家の精神を持つブルーノ中尉が自作の曲を奏でているのだ。次第に彼の音楽だけがリュシルの心の慰めとなり、いつしか二人は惹かれ合うようになる。そんな時、小作の家に滞在していたボネ中尉(トム・シリング)がその家の女房のマドレーヌ(ルース・ウィルソン)に乱暴しようとして、亭主のブノア(サム・ライリー)に殺される事件が起きる。それまで穏やかに接していたドイツ軍も本性を現すように殺気立ち、殺人犯の捜索と同時にユダヤ人狩りや抵抗分子の摘発に乗り出す。姑の留守中にブルーノ中尉とロマンチックな夜を過ごそうと思っていたリュシルは、冷や水を浴びせられたように熱が冷める。
邸にブノアを匿ったリュシルは、それまでの浮ついた気持ちを打ち消すように危険な抵抗運動へと傾向していく。だが、そんなリュシルの変化とは裏腹に、任務とはいえ不本意な残虐行為を遂行しては密かに苦悩するブルーノ中尉。禁断の恋に心を熱くしていた二人に、別れは突然にやってくる。
軍人にしては優し過ぎるブルーノ中尉を演じたマティアス・スーナールツが、今までにない魅力で圧倒する。特に、ラストに見せるリュシルを見つめる眼差しのせつないこと! 毅然とした若妻を演じたミシェル・ウィリアムズが着こなすカラフルで可愛らしいファッションやファブリックに、暗い時代の実状を明るく描こうとするソウル・ディブ監督のセンスが光る。また、当時の風景を保つフランス北部のベルギーに近い町で撮影された本作は、戦争の脅威に覆われる以前ののどかで美しいフランスの田園風景を甦らせて、終戦を迎えられなかった原作者の希望を託しているようで、万感迫る想いがした。
(河田 真喜子)
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