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『ブラック・スキャンダル』

 
       

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作品データ
原題 BLACK MASS
制作年・国 2015年 アメリカ 
上映時間 2時間3分
監督 スコット・クーパー
出演 ジョニー・デップ、ジョエル・エドガートン、ベネディクト・カンバーバッチ、ケビン・ベーコン他
公開日、上映劇場 2016年1月30日(土)~TOHOシネマズ梅田、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマ、OSシネマズミント神戸、MOVIX京都他全国ロードショー

 

~黒社会のボスとFBI、辣腕政治家、幼馴染の3人が夢見たものは~

 
モデルがある人物を演じる時のジョニー・デップの役作りは、ハンパじゃない。かれこれ20年ほど前の作品となるが、ゴンゾー・ジャーナリストのハンター・S・トンプソン原作『ラスベガスをやっつけろ』(98、テリー・ギリアム監督)では、トンプソンをモデルとした主人公を演じるためしばらく一緒に生活をして癖をつかみ、丸刈り&増量と完全な変身を遂げファンを驚かせたものだ。本作でボストンの裏社会を支配し、今刑務所で服役中の実在する犯罪王ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーを演じるにあたっても、禿げ頭にブルーアイと全く別人の見た目で、異様な狂気をたたえながら鬼気迫る演技をみせている。ここのところプライベートばかりが取りざたされていたジョニー・デップの久々に役者魂を感じる作品、本当に「待ってました!」と言いたい気分だ。
 
 
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本作が面白いのは、マフィアのバルジャーとFBIの間に密約が交わされ、バルジャーは情報屋としての役割を果たすという名目で、FBIからの情報を得、おとがめなしで勢力拡大に成功したという信じられない事実から浮かび上がる人間模様が、スリリングに描かれているところにある。アイルランド系移民が住むサウスボストンを舞台に、バルジャーと弟のビリー(ベネディクト・カンバーバッチ)、幼馴染のジョン・コノリー(ジョエル・エドガートン)が、それぞれマフィアのボス、マサチューセッツ州上院議員、FBI捜査官となり、バルジャーとの距離感をうまく保つビリーと、影響力の強さに引きずられ初志を見失うコノリーと、その運命は見事に分かれていくのだ。
 
 
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静かなる狂気という表現が相応しいバルジャーの行動は、義理堅さはある一方、少しでも自分に危険が及ぶような事態に陥れば、容赦なく仲間でも殺す冷淡さを持ち合わせている。FBIの免罪符を得たバルジャーを演じるジョニー・デップの存在感はすさまじい。だが、そんなバルジャーにどんどん取り込まれ、FBIでの自分の立場も、バルジャーからの圧力も厳しくなり、四面楚歌に追い込まれるコノリーを演じるジョエル・エドガートンの心情揺れ動く演技にこそ、むしろ惹きこまれる。ここに、弟ビリーの心情描写が重なればもっと物語が深まったかもしれないが、なにせ現役の上院議員、そこまで突っ込んで描くのは難しかったのかもしれない。ビリー役のベネディクト・カンバーバッチの出番が思ったより少なかったのは、やや残念だった。
 
 
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監督を務めたのは『クレイジー・ハート』、『ファーナス/訣別の朝』のスコット・クーパー。70年代から80年代に渡るボストンのギャング社会を忠実に再現し、秀作ギャング映画ならではの風格が漂う。FBIで黒い密約を黙認する空気が漂う中、主任捜査官チャールズ・マグワイアが野放しとなったバルジャーを追う後半は、マグワイア役のケビン・ベーコンが灰色に染まったFBIの良心を表現してみせた。“サウシー”と呼ばれるこの地域ならではの結束に加え、FBIが結果的に加担して生まれたブラックヒーロー実録。3人やその家族の関係性に主軸が置かれ、いわゆるマフィアの抗争ものとは一線を画するが、アメリカの腐敗と欺瞞を臆することなく描いたという点は大いに評価したい。
(江口由美)
 
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