原題 | Timbuktu |
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制作年・国 | 2014年 フランス、モーリタニア |
上映時間 | 1時間37分 |
監督 | 脚本・監督:アブデラマン・シサコ |
出演 | イブラヒム・アメド・アカ・ピノ、トゥルゥ・キキ、アベル・ジャフリ |
公開日、上映劇場 | 2015年12月26日(土)~ユーロスペース、1月2日(土)~テアトル梅田、近日~京都シネマ、元町映画館、ほか全国順次公開 |
受賞歴 | 2015年 セザール賞最優秀作品賞・監督賞・脚本賞ほか7部門 受賞、 2015年 アカデミー賞外国語映画賞ノミネート |
~歌うことすら禁じられた過激派による支配下で、何が起きているのか?
美しい映像に秘められた悲劇と、静かな抵抗を続けた人々の勇気~
アフリカ西部のマリ共和国北部にあるティンブクトゥという世界文化遺産にも登録されている街では、2012年から翌年にかけてイスラム過激派による支配が1年間続いた。この映画は、その支配下にあった時に起こった実際の事件を基に描かれている。狂信的過激派は、聖なる祈りの場所モスクに武器を持って土足で踏み込み、寛大で人情豊かなアフリカの伝統を踏みにじり、音楽や娯楽を禁止し、女性には外出時の手袋まで強要、未婚の男女の集合を禁止するなど勝手な掟を強いては、違反者には異常なまでの厳罰を科していた。ある遊牧民が引き起こした事件を主軸に、過激派の支配下にあった人々の苦難を淡々と描くことによって、もの言わずとも静かなる抵抗を示した人々の勇気を讃えた力強い作品である。
アブデラマン・シサコ監督は、日常の生活を描きつつも、そこに社会問題や様々な問題が見え隠れするスタイルをずっと貫いてきた。長年フランスに住んでいたが2010年にモーリタニアに移り住み、2012年にイスラム過激派がマリ北部を1年間占領していた間に一組のカップルが石打ちの刑(死ぬまで石を投げ付けられる)にされた事件を知って、大変ショックを受けたという。そして、今世界各地で起きているイスラム過激派による悲劇の縮図を「ティンブクトゥ」という町で表現している。「アフリカの現実を世界に伝えたい」という想いは、国境を越え、時代を超えて人々に訴えかけるものは大きい。
過激派のメンバーを演じた二人のフランス人の俳優以外ほとんどが映画初出演の歌手や演奏家や素人のキャストやスタッフなどで、地元の人々の協力を得て撮っている。そのためか、牧歌的映像の美しさに底知れぬ恐怖を秘めた緊張感がみなぎる。特に、川でキダンが漁師を殺してしまった直後のシーンはとても印象的なシーンで、人間の脆さと弱さを表現。沈みゆく夕日を背景に、死んでしまった人と、これから死ぬ人の対比が不安を掻き立てる。過激派の描写についても、ステレオタイプの暴力的な人としては描かず、危険をはらむ静かな暴力としてズシンと響いてくる。
野蛮な行為や暴力はすべて人間の仕業であり、人間がどこまで残酷になれるのか、暴力という人間の悲しい愚行をシンプルに描きながら、それらに抵抗する忍耐強さも人間が持つ力であることを示している。イスラム教をはじめ、「宗教は本来、暴力ではなく、愛であり許すことである」と語る監督のメッセージを深く心に刻みたい。
(河田 真喜子)
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