原題 | O Estranho Caso de Angelica |
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制作年・国 | 2010年 ポルトガル・スペイン・フランス・ブラジル |
上映時間 | 1時間37分 |
監督 | 監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ |
出演 | リカルド・トレパ、ピラール・ロペス・デ・アジャラ、レオノール・シルヴェイラ、ルイス・ミゲル・シントラ、イザベル・ルート |
公開日、上映劇場 | 2015年12月26日(土)~シネ・リーブル梅田、1月2日(土)~京都シネマ、1月16日(土)~神戸アートビレッジセンター 他全国順次公開 |
~生と死、天上の世界と大地の力とが不思議に溶け合う…~
2015年4月2日に106歳で永眠した巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督が101歳の時に撮りあげた作品。ショパンのピアノソナタに導かれ、生と死、空と大地が、不思議に混ざり合った愛の幻想譚。
舞台はポルトガル北部のドウロ河流域の小さな街。ユタヤ人の青年イザクは、若くして死んだアンジェリカという娘の写真を撮るよう頼まれ屋敷に案内される。イザクがファインダーをのぞき、ピントが合った瞬間、アンジェリカは瞼を開いてにっこり微笑む。あわてて目を離すイザク。でも、その微笑みは他の誰にも見えていない。下宿屋に帰り、現像した写真を見ると、今度は、写真の中のアンジェリカが微笑みかけてくる。その瞬間、イザクは恋に落ちる…。
夜半、アンジェリカがバルコニーに現れ、イザクと抱き合い、ドウロ河の上を飛んで、さらに上昇してゆく…、ふいに目覚めるイザク。画家シャガールの絵を彷彿とさせる構図で、夢のように美しい映像に心奪われる。
度々現れるアンジェリカの姿はモノクロだったり、きらきら光っているように見えたり、どこかユーモアも感じられ、嬉しそうに駆け寄るイザクの姿が微笑ましい。アンジェリカは死者であっても、イザクにとっては死者ではない。まるで美しい音楽のように、イザクの心を癒し、深い愛の世界へと誘う存在。イザクがアンジェリカとともにあの世へと旅立っていったとしても、彼の魂の幸福感が揺らぐことはない。時空を超えた愛を見つけたのだから…。
映画冒頭の、ドウロ河の向こうに町をとらえた夜景や、町のざわめきの音といい、撮影、録音ともすばらしい。とりわけ、イザクの部屋をとらえた、奥行きのある構図は、窓の向こうにドウロ河が横たわり、対岸の葡萄畑が見え、絵画のようで引き込まれる。
イザクが写真を撮りに行く葡萄畑で、鍬で耕しながら働く農夫たちが歌う歌は、服もぼろぼろ、という労働歌で、鍬を振り下ろす音がリズムを刻んでいるようで心地よい。天上の世界を思わせるショパンのピアノの情感豊かな響きと溶け合い、大地へと、空へとそれぞれ反対方向に向かう力が共存する様が不思議な余韻を残す。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://www.crest-inter.co.jp/angelica/
(C) Filmes Do Tejo II, Eddie Saeta S.A., Les Films De l’Apres-Midi,Mostra Internacional de Cinema 2010