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『白鯨との闘い』

 
       

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作品データ
原題 IN THE HEART OF THE SEA
制作年・国 2015年 アメリカ 
上映時間 2時間02分
原作 ナサニエル・フィルブリック(『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇』(2003年))
監督 監督:ロン・ハワード(『アポロ13』『ビューティフル・マインド』)   脚本:チャールズ・レビット(『ブラッド・ダイヤモンド』)    撮影:アンソニー・ドッド・マントル(『スラムドッグ$ミリオネア』)
出演 クリス・ヘムズワース、ベンジャミン・ウォーカー、キリアン・マーフィー、ベン・ウィショー、ブレンダン・グリーソン、トム・ホランド
公開日、上映劇場 2016年1月16日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国3D/2D同時公開

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~自然を敵にしたら、エライ目に遭う~

 

てっきり、世界的に知られる小説『白鯨』(1851年発表)の映画化だとばかり思っていた。『白鯨』は、捕鯨船に乗っていたことのあるアメリカ人作家ハーマン・メルヴィル(1819~91年)の代表的な海洋小説で、「モビィ・ディック」(「でっかい野郎」の意味。隠語では「でっかい〇〇〇」)の異名をとる巨大な白鯨に足を食いちぎられたエイハブ船長が復讐心を燃えたぎらせ、そのクジラと対決する物語。何度もドラマ化されてきたが、とりわけ印象深いのは、ジョン・ヒューストン監督がグレゴリー・ペック主演で撮った1956年の映画だった。評価はあまり芳しくなかったものの、船長の狂気じみたオーラといい、ゴムとプラスティック製のクジラの模型を駆使した特撮といい、結構、インパクトがあった。


hakugei-500-1.jpg本作でも、バカでかい白鯨が強烈な存在感を放っているが、小説とは全く別の物語である。というか、メルヴィルに『白鯨』を執筆するに至らせた実話を再現しているのである。『白鯨』はあくまでも小説。だから、「モビィ・ディック」も作家の空想の産物だと思っていた。ところが実在していたのだ! 正直、驚いた。その白鯨と遭遇した捕鯨船の元乗組員ニカーソン(ブレンダン・グリーソン)が30年前に体験した想像を絶する話を、メルヴィル(ベン・ウィショー)自身が聞き出すという回想形式をとっている。この取材する部分だけが映画のために作られたフィクションだ。原作はアメリカ人作家ナサニエル・フィルブリック(1956年生まれ)の『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇』(2003年)。ぜひとも読みたくなった。


今や反捕鯨国の有力な一員になっているアメリカだが、200年前の19世紀前半はクジラを捕獲しまくっていた。いや、アメリカのみならず、産業革命が軌道に乗ってきた欧米諸国はこぞってクジラを求めていたのである。鯨肉を食べて元気モリモリになるのではない。エネルギー源として鯨油が必要だったのだ。ターゲットにされたのは良質の脂が採れるマッコウクジラが大半。丈夫な骨は家具や日常品に使われていたが、肉はほとんど捨てられ、皮を煮て採油していた。あゝ、もったいない、もったいない。幼いころ、頻繁に(無理やり?)食べさせられていたクジラのステーキにカツ、南蛮漬、大和煮、それにベーコンやコロ(脂身)……。そや、そや、はりはり鍋もあった! 今となっては夢にまで出てくる。死ぬほど食いたいなぁ~。


hakugei-500-5.jpgもとい、時は1819年。アメリカの捕鯨拠点になっていた東海岸マサチューセッツ州のナンタケット島から船員21人を乗せた捕鯨船エセックス号が出港した。蒸気船ではなく、帆船だ。乗組員の最年少が、14歳の少年だった話し手のニカーソン(トム・ホランド)。船長のポラード(ベンジャミン・ウォーカー)はこの島で捕鯨産業を築いた一族のお坊ちゃんで、実践経験はゼロ。一方、一等航海士のチェイス(クリス・ヘムズワース)は本土からやって来たよそ者の元農夫だが、捕鯨の実績が豊富で、ガッツある海の男。この人物の方が断然、船長にふさわしい。とはいえ、当時は厳然と階級社会が根づいており、実力社会とは無縁だった。対照的な2人の確執とせめぎ合い。それが物語に緊張感を与える。マーロン・ブランド主演の映画『戦艦バウンティ』(1962年)のような船長に対する乗組員の反乱がいつ起きてもおかしくない不穏な空気が充満していくが、もしそんな事態になれば、肝心の白鯨がいっぺんに霞んでしまうので、それだけは避けてほしいとぼくは心の中で祈っていた。


捕鯨のシーンが迫力満点だった。日本でもかつてはそうだったように、潮吹きしている鯨を現認するや、ボートで繰り出し、超至近距離からモリで射止める。血を吹き出しながら、逃げまどうクジラの姿が何とも痛ましい。まさに狩りそのもの。環境団体「グリーンピース」のメンバーがこの場面を見たら、卒倒するか、あるいは怒り心頭になり、スクリーンをズタズタに切り裂くかもしれない。それほどまでにクジラには気の毒な捕獲方法だった。でも、それしか方法がないのだから仕方がない。それに捕る側も命懸けだ。『ラッシュ/プライドと友情』(2013年)でスピード感あふれる演出をいかんなく見せつけたロン・ハワード監督が、ここでもダイナミックな映像を生み出し、映画から凄まじいエネルギーがほとばしっていた。


hakugei-500-4.jpg捕鯨船が南アメリカ最南端のホーン岬を回り、太平洋を北上してから、くだんの白鯨が姿を現す。全長30メートルのマッコウクジラ。普通のオスの倍以上。クジラは人間に追われる生き物なのに、逆に人間を襲う。体表にいろんな傷がついていた。これまで人間によってよほど痛めつけられてきたのであろうか、それともクジラを乱獲してきた人間に対する自然の怒りなのか。憎悪・怨念をむき出しにした不気味な眼差しを向ける。この目のクローズアップは、恐ろしいシャチの物語『オルカ』(1977年)をパクッているなと瞬時に思った。とにかくモンスター然としている。『ウルトラマン』でガマガエルとクジラが合体したガマクジラという怪獣がいたが、CGで作られた「モビィ・ディック」はそれよりもはるかに強そうに見えた。何せ神々しさすら感じられるのだから……。


映画は後半、まったく予期せぬ展開を見せる。海洋ドラマには付き物の漂流譚である。ここからがむしろ監督の描きたかった世界かもしれない。アン・リー監督の『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2013年)、ロバート・レッドフォードの一人劇『オール・イズ・ロスト~最後の手紙』(同)、2016年2月公開のアンジェリーナ・ジョリーの監督作『不屈の男 アンブロークン』(2014年)など漂流モノが相次ぎ、いささか食傷気味。ここではしかし、不屈の精神だけでなく、倫理的な問題にも深く踏み込んでいく。極限状態に置かれた人間がいかなる行動を取るのか。それをつぶさに観察する、そんなふうにカメラが登場人物の顔を捉えていく。計り知れない苦悩さがこの映画の重しになっていたように思う。

 
hakugei-500-3.jpg一等航海士チェイスが白鯨に片足を食いちぎられ、その彼が『白鯨』のエイハブ船長のモデルになるのではないかと睨んでいた。しかしそれも裏切られた。エイハブ船長はメルヴィルが作り上げた架空の人物だったのだ。壮大なる自然を前にして、わが身の傲慢さを知った主人公の顛末に救われた思いがした。どうかややこしい続編は作らないでほしい。エンドロールを見ながら、切にそう願った。

武部 好伸(エッセイスト)

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