原題 | The President |
---|---|
制作年・国 | 2014年 ジョージア、フランス、イギリス、ドイツ |
上映時間 | 1時間59分 |
監督 | 監督・脚本:モフセン・マフマルバフ(『カンダハール』) 共同脚本:マルズィエ・メシュキニ 撮影:コンスタンチン・ミンディア・エサゼ |
出演 | ミシャ・ゴミアシュウィリ、ダチ・オルウェラシュウィリ、ラ・スキタシュヴィリ |
公開日、上映劇場 | 2015年12月19日(土)~シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、シネ・リーブル神戸、12月26日(土)~京都シネマ、ほか全国順次公開 |
暴力の連鎖は止められるのか?
自らが招いた混乱の中を小さな孫を連れて逃げ惑う独裁者
幼い孫を膝に抱いた大統領は、宮殿から見下ろす街の夜景を見ながらつぶやく。「大統領は何でもできるんだよ。この街の灯りも一声で消せるんだよ。」と、孫に「消せ」「点けろ」の命令を出させて遊んでいた。ところが、二度目の「点けろ」の命令には反応せず、そのうち暗闇の中で銃声が響く。クーデターの勃発だった。翌朝、家族で空港へ向かう大統領一家を乗せた車の中では、事の重大性を認識できないわがまま娘二人が「一緒の飛行機に乗りたくない」とケンカしている。これが最後のチャンスかもしれないのに、宮殿に置いてきたオモチャとガールフレンドのマリアのことが諦めきれず「乗りたくない!」と暴れる5歳の孫。仕方なく幼い孫を抱え、他の家族を国外へ脱出させる大統領。
宮殿へ戻ろうとすると、来た時とは打って変わって大統領車めがけて市民が襲撃してくる。護衛官が応戦しても埒が明かない。たちまち囲まれて強行突破するが、次々と護衛官が消え、運転手まで逃げてしまう。それからというもの、孫に大統領と呼ばせていたのを“おじいちゃんと呼べ!”と叱り、貧しい者から衣服を剥奪し貧しい旅芸人に身をやつして逃げ惑う大統領と小さな孫。指名手配され、懸けられた賞金がどんどん跳ね上がる中、自分があずかり知らないところで軍人や警官や役人たちがやりたい放題の非道が日常化していたことに気付いていく。国民が極貧にあえぎ苦しむ様子を目の当たりにして、自らの失政が招いた悲劇の中の逃避行は、あたかも“地獄めぐり”のようだ。今まで国民を思い遣らず圧政を強いて来た報いが来たのだ。
そんな独裁者の愚かさを時には皮肉まじりのユーモアで表現し、子供の純真な瞳に映る世界を通して大人の愚行を浮き彫りにしている。今もなお脅迫を受けているというイランから亡命したモフセン・マフマルバフ監督は、ジョージア(旧グルジア国)の役者やスタッフを起用して、ロシアとの紛争を引きずるジョージアで本作を撮っている。舞台は架空の国となっているが、近年民主化運動によって失脚したいくつかの政権を連想させる。だが、国も時代も超越した普遍的テーマがそこにはある。統治者の義務と責任を果たさなかった報いと、暴力に暴力で応酬することの愚かさや虚しさが示されて、感慨深い余韻をもたらす。
イランの若き監督、アミルホセイン・アスガリが撮った『ボーダレス ぼくの船の国境線』といい、イランのベテラン監督が撮った本作といい、戦争や紛争によって苦しめられる人々の状況を、シンプルな構成で強烈なメッセージを含んだ物語で表現した秀作が続いている。命懸けで逃避行する様はハラハラするが、小さな孫との掛け合いや貧しい国民とのやり取りが妙に笑えてくるのだ。重いテーマの映画なのに、あれよあれと言う間に衝撃のラストを迎える。大作続きの今年の年末年始だが、是非見て頂きたいのは、『大統領と小さな孫』!!!
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://dokusaisha.jp/
コピーライトなし