～死闘から４０年、後継ぎは宿敵の息子～

時の流れは残酷だ。印象に残る『ロッキー』の名場面。トレーニングを始めたロッキーが、起き抜けに生卵を立て続けに割って一気飲み。始めたランニングの終点がフィラデルフィア美術館の正面階段。一気にかけ上がり、勇壮なテーマ曲とともに力強さをアピールした。この時、ロッキーは街からも祝福された。

４０年経つとすべては思い出になる。さっそうとスクリーンに登場し、アメリカン・ドリームの代名詞として伝説になったロッキーも今では“老いとの戦い”に苦戦中。かつてかけ上った階段を、這うように昇る姿に時の流れを痛感する。自らも含めて人間は誰も、なのだが。

様々な戦いに勝ち抜き、富と栄光を手にしてきた彼の最後の望みは、伝説を受け継ぐ“後継者”だった。  一方、元気過ぎる若者アドニス・ジョンソン(マイケル・Ｂ・ジョーダン)は仕事は順調、母と二人で何不自由なく暮らしていたが、ボクシングへの情熱だけは抑え切れなかった。ジムでナンバーワン・ボクサーに挑むが、自己流パンチが通用する訳もなく、あっさりＫＯされる。

“いわく付きの問題児”にはコーチの引き受け手がなかった。だが、正式に学ぶ必要を痛感したアドニスは、母に無断で仕事を辞め、勘当同然で家を出る。行き先はフィラデルフィア。出向いた先はロッキーのもとだった。意を決して打ち明ける。「アポロの息子だが、コーチを頼みたい」。   親友だったアポロの死を悔やむロッキーは一度は断るが、我流でトレーニングを続けるアドニスに心を動かされて引き受ける。ロッキーがアポロの息子のトレーナーとは“時のいたずら”か。

かつて文字通り命懸けで死闘を繰り広げた(『ロッキー１、２』)宿敵に対し、今でも「アポロが最強」と語る。そして「彼を倒したのは俺じゃない。時間だ」とも。粗削りなアドニスにアポロの素質を見て「俺のやり方で鍛える」ことを条件に引き受ける。

一度グローブを置いたロッキーが「再びグローブを手にする」。映画史上、最も愛されるキャラクターに再度命を吹き込むには“宿敵の息子”が必要だった。スタローン自身「ロッキーが人々に残した印象の大きさに当惑し、圧倒される。このキャラクターを損なってはいけない責任を感じてきた」という。親子のような師弟関係は、映画『ロッキー』を見て育ったライアン・クーグラー監督が設えたお膳立てだった。

そんな時、36戦無敗！の世界チャンピオン、リッキー・コンラン(アンソニー・ベリュー)は銃の不法所持で７年の刑を宣告され“最後のタイトルマッチ”の相手を探していた。強すぎて相手が見つからない中、話題性満点のアドニスに白羽の矢が立てられる。「無敵のチャンピオンVS無名の若造」という構図は、アポロに指名されたロッキーとまったく同じ。さっそくアドニスの猛特訓を開始するがある日、ロッキーの体に異変が起こる…。

ボクシング映画は数多い。アメリカ映画では実在のチャンピオンが主人公の『アリ』(‘01年)があるし、日本にはちばてつや原作の人気劇画『あしたのジョー』(‘70年、’10年)が２度、実写映画化されている。リアリティーでは『アリ』などに比べてやや見劣りする、という指摘もあるが、それでもなお、ボクシング映画の最高峰と目されるのは見事なドラマ性ゆえだ。

最強チャンピオンが気まぐれで、貧民街育ちの無頼の若造“イタリアの種馬”とタイトルをかけて闘うのは、まさしくアメリカン・ドリーム。15ラウンドをフルに戦ってすべてを出し尽くした後、リングから恋人の名前「エイドリアン」を叫ぶロッキーは「夢に手が届いた男」の勝利の雄叫びだった。

その夢をもう一度…。ロッキーをセコンドにつけたアドニスの戦いは、今もアメリカン・ドリームが生きているかどうかの再現テストでもあろうか。アドニスの恋人は第１作と違ってリングサイドにいるが。

     （安永 五郎）

公式サイト⇒　http://www.creedmovie.jp

 (C)2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.