原題 | BRIDGE OF SPIES |
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制作年・国 | 2015年 アメリカ |
上映時間 | 2時間22分 |
監督 | 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:ジョエル&イーサン・コーエン、マット・チャーマン 撮影:ヤヌス・カミンスキー |
出演 | トム・ハンクス、マーク・ライランス、スコット・シェパード、エイミー・ライアン、セバスチャン・コッホ、アラン・アルダ |
公開日、上映劇場 | 2016年1月8日(金)~スカラ座、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、OSシネマズミント神戸、他全国ロードショー |
~米ソ人質交換を実現した“無国籍弁護士”~
米ソ冷戦の真っ只中、アメリカに逮捕されたソ連のスパイと、ソ連領に墜ちて拘束された米偵察機U2パイロットを“人質交換”するという難事業を成し遂げたのは、CIAでもFBIでもない、名もない民間弁護士だった…。
現代史に秘められた実話をスティーヴン・スピルバーグ(製作、監督)、コーエン兄弟(脚本)、トム・ハンクス(主演)が映画化した作品は、緻密な描写でスリリングな緊迫感にあふれた。 大きな仕事を成し遂げる男にはモチベーションが不可欠だ。名誉か金か、諜報員なら国家の誇りと威信か。新作『007スペクター』では諜報員代表のジェームズ・ボンドでさえ、身分(英国情報部MI6)が危なくなる。だが、トム・ハンクス演じる弁護士ドノヴァンはそのいずれとも無縁だった。なんと奇特な…。
ドノヴァンは実在のアメリカ人弁護士で保険が専門分野。生まじめにキャリアを重ねてきた良き夫、良き父、何よりも良き市民だ。いわば平凡な一アメリカ人だが、そんな彼が時の大統領ジョン・F・ケネディからミッションを与えられる。最初は、米国内で捕らえられたソ連人スパイ、アベル(マーク・ライランス)の弁護。彼は「気が進まない」と断るが「米国が良識ある国家と世界に示すために」と乞われて引き受ける。
1950~60年代はアメリカとソ連が一触即発の危機にあった冷戦時代。そんな時に「ソ連スパイの弁護」はまさに“国賊”もの。まっとうな論理で被告人の弁護を始めるが、彼もまた複雑な思いを拭えなかった。地下鉄では乗客の客から非難の目で見られ、自宅に投石され、妻子は近所や学校で孤立。自宅が銃撃され命の危機にさらされたこともある。
ドノヴァンは“米国の理想”のために「一人の人間」を救おうと努める。大半が極刑を望む中、彼だけは断固、反対する。それは「米国のスパイがソ連で捕まった時、交換要員にする」という冷徹な判断でもあった。
当時、米軍は高度偵察機U2を開発、実用へと動き始めていた。ドノヴァンがそんな事情をどこまで知っていたのか、実際、ソ連上空で偵察中にU2が撃墜され、パイロットのゲイリー・パワーズ(オースティン・ストウェル)が拘束されるという事件が起こる。彼は裁判で10年の刑を言い渡され、重要機密が漏れるのを恐れたCIAは密かにアベルとパワーズの交換を画策する。
この重大任務に「事情を熟知しているから」と抜てきされたのがドノヴァンだった。場所は鉄のカーテンの向こう、東ベルリン。彼には政府関係の身分は与えられず、ただの民間弁護士として、家族にも詳細を知らせることなく交渉の場に赴く。そこには、もう一人、東側に逮捕された学生が救出を待っていた…。
“普通の市民”が主役を務めるのはスピルバーグ作品の大きな特徴だ。センセーショナルな話題を呼んだデビュー作『激突!』('71年)からそうだった。車で出勤途上のサラリーマンが、タンクローリーを追い越したばかりに、執拗につけ狙われ、何度も生命の危機に見舞われる。
大ヒット作『ジョーズ』('75年)は警察署長だったが、『未知との遭遇』('77年)でUFOに魅せられるオヤジも、『ET』('82年)で宇宙人と心を通わせる兄妹も普通の子供たち。アカデミー賞を取った『シンドラーのリスト』('93年)のヒーローでさえ、当初は無名だった。平凡に暮らす普通の市民が、事件に巻き込まれるドラマがスピルバーグだ。ドノヴァン弁護士もまた、東側スパイとの駆け引きというとんでもない国際政治の渦中に巻き込まれていく。“凡人”が図らずも遭遇するスリルが何とも堪らない。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://www.foxmovies-jp.com/bridgeofspy/
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