原題 | Woman in Gold |
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制作年・国 | 2015年 アメリカ・イギリス |
上映時間 | 1時間49分 |
監督 | 監督:サイモン・カーティス 『リトル・ヴォイス』『マリリン7日間の恋』 撮影監督:ロス・エメリー 脚本:アレクシ・ケイ・キャンベル |
出演 | ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、ケイティ・ホームズ、タチアナ・マズラニー、マックス・アイアンズ |
公開日、上映劇場 | 2015年11月27日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、MOVIX京都、OSシネマズミント神戸、他全国ロードショー |
~名画返還訴訟の陰に、過去と対峙したユダヤ人女性の勇気あり~
「接吻」や「ユディト」など金箔を使った画風で有名なオーストリア近代絵画の巨匠グスタフ・クリムトには、“オーストリアのモナリザ”と称えられた「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」(通称:黄金のアデーレ)という傑作がある。そのウィーンのベルヴェデーレ美術館に飾られていた名画の返還を求めて、1998年、82歳のアメリカ人女性マリア・アルトマンがオーストリア政府相手に返還訴訟を起こした。本作は、この名画の持ち主だったユダヤ人一家のウィーンでの暮らしぶりや、ナチスに財産を没収され家族や友人を殺され命懸けでアメリカへ亡命したマリアと夫のことや、マリアが返還訴訟を起こしてから2006年に結審するまでを、実話に基づいて作られている。それは、深い悲しみと喪失の時代を封じ込めて生きて来た女性が、勇気を振り絞って過去と対峙した感動のドラマでもある。
【STORY】
ロサンゼルスでブティックを経営しているマリア(ヘレン・ミレン)は、亡き姉のルイーゼが叔母の肖像画「黄金のアデーレ」の返還をオーストリア政府へ求めようとしていた意志を継ぎ、同じユダヤ人家系の若き弁護士ランディ・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)に訴訟の依頼をする。まだ駆出しの弁護士ランディは、独立したが上手く行かず、今では大手弁護士事務所に籍を置いていた。最初は困難な事案に乗り気ではなかったランディだったが、肖像画が1億ドル相当の評価額だと知り、また、ナチスに財産没収されたユダヤ人の権利回復のために引き受けることにした。それは同時に、財産も家族も友人も奪われた悲しみに耐えて生きて来たユダヤ人女性が、凄惨な過去と対峙する過酷な旅でもあった。
先ずは、嫌がるマリアを説得してウィーンへと向かう。生まれ故郷への郷愁はたちまち迫害の歴史と変わったが、それでも砂糖事業で成功したマリアの一家が暮らした屋敷での華やかな暮らしぶりが甦る。マリアの母親とアデーレは姉妹で、マリアの父親とアデーレの夫も兄弟だった。子供のいない叔母夫婦はマリアのことを我が子のように可愛がっていた。オーストリア政府が主張する「政府に寄贈する」というアデーレの遺言状の行方や、オーストリアでの困難な交渉などで何度もくじけそうになる。それでも、ランディの祖先が受けた迫害を思いやり、弁護士事務所を辞めてまでも取り組もうとするランディの熱意に押され、マリアは過去を清算するために、舞台をアメリカの司法に移して闘うことにする。
惜しくも2011年に93歳で亡くなり本作を見ることはなかった実在のマリア・アルトマンを演じたのは、『クィーン』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したイギリスの名優ヘレン・ミレン。時には皮肉まじりな言葉を発したり、憎しみを抑えつつ機知に富む答弁をしたり、あっぱれな80歳代のマリアを喜々として演じている。そのメリハリのあるキャラクターこそ、この悲しみのルーツを探る旅の終わりに力強い希望を感じさせてくれる要因となった。
余談だが、こんな深いドラマを秘めた“黄金のアデーレ”に会いに行きたいと思った。現在は、ニューヨークの個人美術館、ノイエ・ギャラリーに収蔵されている。裁判の後マリアは、ナチスの略奪事件諮問委員会所属だった実業家のロナルド・ローダー氏に、一般公開を条件に譲渡したというのだ。世紀の傑作が姪であるマリアの元に還されたのはいいのだが、“アメリカのモナリザ”になってしまったのだ。画家のクリムトにとって、モデルのアデーレにとって、ウィーンを離れることに一抹の寂しさは感じないだろうか? こんなことになったのも、戦争という理不尽極まりない悪行の結果であり、オーストリアの人々も過去を明らかにして、償いの気持ちがあったのだろうか。本作の撮影には、ウィーン市をあげて非常に協力的だったという。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://golden.gaga.ne.jp
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