制作年・国 | 2015年 日本 |
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上映時間 | 2時間10分 |
監督 | 監督:山田洋次 脚本:山田洋次・平松恵美子 |
出演 | 吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一 |
公開日、上映劇場 | 2015年12月12日(土)~全国ロードショー |
~“生死の境超え”息子と語らう母の姿~
耐え難い悲しみに遭うと人は「見えないものが見える」のかも知れない。ひとえに愛情を注いできた息子を一瞬で亡くした母親。悲しみにうちひしがれ、自らの命と引き換えるように、死んだはずの息子の姿を見る…それはこの世ならず切なく、美しい母の愛。吉永小百合と二宮和也の母子の姿に、浮き世離れすらした“母子だけの世界”が見えた。“息子とともに生きる至福感”に満たされる。たとえ、それが夢幻であろうと。もはや生死は問題ではなかった…。
昭和20年8月9日、米軍爆撃機の原爆投下シーンから始まる。長崎は一瞬でガレキと化し、大学で医師を目指して勉強中だった息子・浩二(二宮)も死んでしまう。彼は何も残さず、そのために助産婦をして暮らす母親・伸子(吉永)はあきらめがつかなかった。3年が経った命日8月9日、「もうあきらめる」と墓前で誓った日に、浩二はひょっこり伸子の前に姿を現す。
浩二は「母さんはあきらめが悪いから、なかなか出て来られんかった」と愚痴をこぼす。「あんたは元気?」と尋ねる伸子に、浩二は「元気なわけなかやろう。僕はもう死んでるんだよ」と言って腹を抱えて笑う。こうして始まった母子の語らいは、楽しかった思い出や他愛ない話まで尽きることがなかった。
浩二の関心は美しく優しい恋人・町子(黒木華)のこと。浩二を亡くした町子もまた、心の行き場をなくし「自分だけ生き残った」罪悪感に苦しみながらも、この3年、伸子を気にかけ続ける優しい娘だった。「町子に好きな人が出来たら、あなたは諦めるしかないのよ。あの子の幸せを考えなきゃ」という伸子の言葉に浩二は「嫌だ。町子には僕しかおらん」と激しく反発する。町子も「結婚はしません。いつまでも浩二さんと一緒に」と言うのだったが…。
名匠・山田洋次監督の“戦後70年”作品は故・井上やすし氏が念願していた長崎を舞台にした物語『母と暮せば』。広島を舞台にした『父と暮せば』を書いた井上さんは対になる「長崎の物語」を強く念願、その思いを山田洋次監督が叶えた。これほど愛に包まれたファンタジーがあっただろうか? 到底受け入れられない息子の死。乗り越えることなど出来ない。その思いが見せる果てしない夢幻の世界。そこに失われた愛情がほとばしる。だが、伸子の度重なる説得に、やがて町子も折れるしかなかった…。
黒木和雄監督『父と暮せば』(‘04年)公開の際、主演の原田芳夫さん(故人)に聞いた。宮沢りえの父親役を務めた原田さんに役柄の感想を尋ねると、原田さんは苦笑いしながら「おバケだからなあ」とひと言だけ話してくれたのが忘れられない。
娘の“応援団”になった父親・原田さんと違い、母親は「息子といたい」思いを貫く。母の強さを感じさせながら終盤、かつて見たことない展開になっていく。 近年『東京家族』(‘13年)、『小さいおうち』(‘14年)と隙のない映画を作り続けてきた名匠の仕事というにふさわしい。CGを多用して“亡霊”の息子と母親の交流をしみじみと描き、長崎の町を再現して見せた。幽明の境を超えた彼女は、夢幻の境地でただ幸せだったに違いない。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://hahatokuraseba.jp/
(C)2015「母と暮せば」製作委員会