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『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』

 
       

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作品データ
原題 英題:White God/原題:Fehér isten 
制作年・国 2014年 ハンガリー・ドイツ・スウェーデン合作
上映時間 1時間59分
監督 コーネル・ムンドルッツォ
出演 ジョーフィア・プショッタ、シャーンドル・ジョーテール、ルーク&ボディ
公開日、上映劇場 2015年11月21日(土)~109シネマズ大阪エキスポシティ、11月28日(土)~シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、T・ジョイ京都、12月26日(土)~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開

 

~犬たちの瞳に、表情に、注目~

 

ハンガリーから、とんでもない映画がやってきた。犬版『猿の惑星』と海外評にあるとおり、後半40分、250匹もの犬たちが、ブタペストの市街地を道いっぱいに、すごい勢いで駆け抜ける…。何十人もの銃をもった警察相手に、後ろから威嚇するとみせかけて翻弄したり、統率もとれている。CGを使わず実写で撮影されたという、迫力ある映像に圧倒される。映画に登場した犬たちの大半が、動物保護施設に入れられていた犬で、70人ものトレーナーがついて数か月にわたり訓練を受け、撮影後は、それぞれ新たな里親に引き取られていったというエピソードに心あたたまる。


WG-500-1.jpg主人公のリリは13歳。雑種の犬の飼い主には重い税を課すという法律が施行され、友達以上に仲のよかった愛犬ハーゲンを家では飼えないと父親からきつく言われる。リリとハーゲンとの心の交流を軸に、家でも学校でもなじめないリリの心模様が繊細に描かれる。


同時並行で、捨てられてひとりぼっちになったハーゲンの生き抜くための放浪と冒険が描かれる。映画はハーゲンの目線で街をとらえる。道路を横切ろうにも、次々と高速で目の前を通り過ぎる車の怖いこと。市場に行くと、同じような境遇の雑種の野良犬たちがたくさんいる。白ぶち模様の小柄な犬がハーゲンの窮地を助ける。この二匹のコンビが可愛い。捕獲しに来た行政の人間達の手から逃げるべく、弱い犬たちが寄り添いあい、互いに助け合う姿は微笑ましく、応援したくなる。闘犬家に売りつけられたハーゲンは、興奮剤を食べさせられ、痛めつけられ、闘犬として、野性の怒りをあらわにするようになるが…。


WG-500-4.jpg犬の映画といえば、人間への愛情と忠誠が描かれた作品が多い中、本作では、犬の怒りが爆発し、その表情がしっかりと映像にとらえられる。監督は、マイノリティとしての大衆が蜂起する瞬間を描きたかったという。雑種として、人間に捨てられ、虐げられた犬たちが、保護施設を脱出する光景は、自由を求めて世界へと駆け出していくようにも見える。犬たちの、ものいわぬ瞳の力、表情に、思わず釘付けになる。


WG-500-3.jpg後半、人間に虐待された犬たちの反乱と復讐へと、映画は加速していく。最後に突然訪れた静けさと、終止符の打ち方に、深い余韻が残る…。少女と犬の物語の続きは、この映画を観たあなたの心に委ねられている。

(伊藤 久美子)

公式サイト⇒ http://www.whitegod.net

2014 (C) Proton Cinema, Pola Pandora, Chimney

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