原題 | 1001 Grams |
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制作年・国 | 2014年 ノルウェー=ドイツ=フランス |
上映時間 | 1時間33分 |
監督 | ベント・ハーメル |
出演 | アーネ・ダール・トルプ、ロラン・ストッケル、スタイン・ヴィンゲ |
公開日、上映劇場 | 2015年10月31日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、11月14日(土)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開 |
~はみだした“1グラム”に込められた思い~
その人の重みは計ることはできない…。マリエは、国立計量研究所で働く科学者。スキージャンプ台の長さを計れば、ガソリンスタンドの給油機の計器の検査もする。研究所で重鎮だった父が急病で倒れ、代わって、国際セミナーに出席することになる。1キログラムの単位の基準となる、ノルウェーの「キログラム原器」を持って、パリへ出張する。そこで、マリエは、自分と同じ小型電気自動車に乗るパイという男性と出会い、親しくなる。
マリエは結婚に失敗しており、別居中の夫は、マリエの留守中に自宅にやってきては、次々と家具を持ち出し、家の中はどんどん空っぽになっていく。父も亡くなり、パリから帰ってきた晩、夫が最後に残っていた写真の額を持ち出そうとするのを見て、マリエはいろいろな感情が折り重なり、車を飛ばして父の農場に向かう途中、横転して、大切なキログラム原器のケースを壊してしまう。ひそかに修理するため、パリに向かうマリエの前に現れたのは…。
父以外の人には、誰に対しても無表情で、愛想のないマリエが、パリで、パイに会って話している時だけは、初めて笑顔を見せる。パイは造園の仕事をしていて、苗を植えるのを手伝ったり、鳥の鳴き声を聴いている時のマリエの表情は生き生きしている。アーネ・ダール・トルプがヒロインの繊細な心情の変化を好演。
マリエの自宅も研究所も、北欧らしく整然として美しいが、どこか無機質で、冷たい。それに比べ、郊外にあるマリエの父の農場の部屋は、木目調であたたかく、パリにあるパイの部屋にもやわらかい光が差し込む。印象的なシーンがある。父が亡くなった後、マリエが遺骨を持って農場に行き、ベッドで、亡き父のぬくもりを愛おしむかのように頬を寄せる。今、その人はもういない。でも、その人が自分の心の中にしめる重みは、はかりしれないほど大きく、何物にも代えがたい…。父を喪い「人生のすべての基準点が崩れていくみたい」と言っていたマリエ。でも、父はいなくなっても、その重みを心に確かめることができれば、マリエは新しく出発できるにちがいない。
『ホルテンさんのはじめての冒険』や『キッチン・ストーリー』など、心をほっこりさせる作品をつくってきたベント・ハーメル監督の最新作。タイトルの“1001グラム”の“1グラム”は、1キロをはみだした1グラムでもある。人生、多少はみだしても大丈夫、わりきれないことも多い。でも、わりきれないことも全部楽しむ余裕をもてたら、もっと生きやすくなるのでは…と監督が観客に向けて贈った愛と励ましとユーモアが、この“1グラム”には込められているような気がする。
(伊藤 久美子)
公式サイト ⇒ http://1001grams-movie.com/
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