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『螺旋銀河』

 
       

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作品データ
制作年・国 2014年 日本 
上映時間 1時間13分
監督 監督:草野なつか  脚本:高橋知由、草野なつか
出演 石坂友里、澁谷麻美、中村邦晃、恩地徹、石橋征太郎
公開日、上映劇場 2015年10月31日(土)~シネ・リーブル梅田、11月28日~12月11日 元町映画館、11月28日~12月18日~立誠シネマプロジェクト

 

~“声が世界に触れる”~

 

「欠点さえ同じになりたい。傷や、痛みや、狂ったところも。あなたの体に、もし大きな穴があいていたとしたら、私の体の同じところに同じ大きさの穴をあけたい」これは、この映画の中で朗読されるラジオドラマの脚本の一節。恋する相手への、あこがれの相手への気持ちを率直に、大胆に表した言葉に、思わず釘づけになる…。


綾は、脚本学校で書いた作品が、深夜のラジオドラマに採用されるものの、共同執筆者をつけるのが条件と言われ、会社の同僚で、おとなしい幸子に引き受けてもらう。幸子は、はじめ、綾の言いなりだったが、綾のために力になりたいと、脚本の内容について自分の意見を口にするようになる。綾に冷たくされても、幸子は、真摯な思いを抱き続けるが…。


rasenginga-500-2.jpg映画の冒頭、「【antonym/アントニム】(名詞)対義語、反対語 対になる言葉、反対の意味を持つ言葉」という字幕が現れる。美人で快活で、自分本位な綾に対し、幸子は地味で内向的。幸子は綾にあこがれ、綾と同じ色のコートを着たり、服装を真似るところが、純粋でいじらしい。こういった感情は、誰もが一度は抱いたことがあるのではないか。「たとえ同じものを食べ、同じものを見ていたとしても、なんでこんなに違うんだろう。あなたのように食べ、あなたのように見ることができたらいいのに」。違うからこそ、魅かれる気持ちが、映画の基調になる。二人を知る男性の登場により、それぞれの切実な思いがぶつかりあい、ドラマはおもしろくなっていく。いやがおうでも、相手が自分にとってどんな存在なのかを、見つめ直していく綾と幸子。


コインランドリーという無機質に見える空間のことを、幸子は、「ドラム一つひとつが独立した世界」で、洗濯というのも個人的なこと。コインランドリーは、「個人の世界が外の世界とつながっている」と語る。ドラムの中では、水流がぶつかりあって混沌とした世界でも、深夜の都会で、煌々と明かりがついたガラス張りのコインランドリーは、整然としていて、誰かが雑誌を読んでいる風景も、どこかほっこりとして、心が和らいだりする。幸子や綾がコインランドリーで、ぼんやり坐っている姿がいい。


rasenginga-500-1.jpg映画は、俯瞰でとらえた夜の街の風景から始まり、あちこちで夜景を交差させていく。とりわけ、ロングショットでとらえた、夜のプラットホームの遠景がすばらしい。都会の夜景はどこかさびしい。人を愛し、すれちがい、満たされず、それでも追いかけずにはいられない、そんな片想いには、夜の風景がよく似合う。ぎくしゃくしていた二人の関係は、最後、ラジオドラマでの朗読を通じて変わっていく。「あなたの声が聞きたい」、「わたしの声を聞いてほしい」…すれちがった思いが、再び出会った時の、微笑みを心に刻み付けてほしい。

(伊藤 久美子)

 公式サイト⇒ http://www.littlemore.co.jp/rasenginga/ 


【追 記】

2014年3月の大阪アジアン映画祭で上映された際、草野なつか監督が来阪され、トークで、この映画は、ひっこみ思案の女の子が、あこがれの女の子を見つけ、彼女に固執し、その思いが、実生活にも浸食していく話だと語られた。脚本の高橋知由さんとはバイト仲間で、「聴く」ことについて取り組まれていて、考えていることが共通しており、共同執筆をされたとのこと。まず第1稿を高橋さんに書いてもらい、シノプシスの段階で10回以上のやりとりがあり、脚本づくりはかなり苦労されたそうだ。
 

通常のラジオドラマでは、もっと感情を入れて読むけれども、映画では、感情表現はむしろ抑えて朗読してもらったので、画面に映っている二人の表情や視線といった“のりしろ”のところから想像してほしい、“声が世界に触れる”みたいなことを考えてもらえたら…と話されたのが心に残っている。

 

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