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『ヴェルサイユの宮廷庭師』

 
       

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作品データ
原題 A LITTLE CHAOS
制作年・国 2015年 イギリス
上映時間 1時間57分
監督 アラン・リックマン
出演 ケイト・ウィンスレット、マティアス・スーナールツ、アラン・リックマン、スタンリー・トゥッチ他
公開日、上映劇場 2015年10月10日(土)~角川シネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、テアトル梅田、新宿武蔵野館、MOVIX京都、17日(土)~シネ・リーブル神戸他全国順次公開
 

~「秩序」の中に「無秩序」をもたらすヴェルサイユの新ヒロイン誕生~

ヴェルサイユ宮殿は、ベルバラ世代ならずとも死ぬまでに一度は行きたい名所の一つだろう。私もこの夏、初めてのフランス旅行の道中でヴェルサイユ宮殿に立ち寄り、全世界からの観光客でテーマパーク状態になっている宮殿内を足早に見学、窓から眺める庭園の素晴らしさに息をのんだ。そのまま慌ただしくパリ市内に戻ったのだが、この映画を観て、庭園散策を諦めたことを心底後悔している。『ヴェルサイユの宮廷庭師』は、まさしくルイ14世が王権強化と権力を知らしめるために着手したヴェルサイユ宮殿の庭園建設を題材にした物語なのだ。男社会の造園という仕事で、女性造園家サビーヌ・ド・バラが才能を見込まれ、苦難を乗り越え、愛と信頼を得ていく姿は、ともすれば話が上手すぎるとやっかみたくもなる。だが、ケイト・ウィンスレットの重力のある演技が、サビーヌに人間的な厚みを与え、むしろ共感を呼ぶのだ。庭園建設の舞台裏に誕生した新ヒロインは、武力ではなく、その志で、秩序正しい宮殿社会にほんの少しの無秩序をもたらした。
 
 
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国王付きの造園家、ル・ノートルが新しく造営するヴェルサイユ宮殿の庭園コンペ案を募集した冒頭から、いい意味でサビーヌの「異物感」が際立っている。田舎の女性造園家に向けられる目は決して穏やかなものではないが、サビーヌ本人は自分の提案を届けたい一心で、人目を気にするような器の小さい人間ではない。その斬新な提案が、庭園に特別な思い入れを持っているルイ14世を満足させる起爆剤になると見込んだル・ノートルも、しがらみに囚われない判断ができる人間として描かれている。
 
 
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まず水を引くところから始まる土木工事のような造園現場で、ドレス姿のサビーヌが泥と汗まみれになりながら働く姿がリアルに感じられるのは、ケイト・ウィンスレットによるところが大きい。そして、サビーヌの良き理解者、上司であり、恋に落ちていく相手となるル・ノートルを演じるベルギー人俳優マティアス・スーナールツのしなやかさも、「こんな人にサポートして欲しい!」と思える王子様的要素を兼ね備えている。
 
 
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ル・ノートルの妻の嫉妬からくる造園妨害など、窮地に追い込まれるサビーヌに新たな展開をもたらすのが、本作では監督を務めるアラン・リックマンが演じるルイ14世だ。サビーヌの勘違いから身分違いの交流を深めるシーンなど、ウイットに富んだやりとりで、ハプニングを大いに楽しんでいるルイ14世の人間的魅力が伝わってくる。ルイ14世の招きでルーヴル宮へ招かれたサビーヌと、宮廷内でしか生活できない閉鎖的社会で生きている貴族女性たちとの交流シーンも印象的だ。庭園家のサビーヌに敬意を払いながら、同じ目線で愛する人を亡くした喪失感を分かち合う。ここでも秩序の中に無秩序をもたらしたサビーヌ効果が発揮され、停滞した宮廷の空気を変えるのだ。
 
 
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草花を慈しみ、仕事に情熱を傾けるサビーヌがずっと抱えている影の部分、ル・ノートルの破たんしていた夫婦関係も描き込み、色々な事情を抱えた大人のラブストーリーがヴェルサイユを舞台にした物語を艶やかに彩る。そして、出来上がった<舞踏の間>の美しいこと!その美しさはぜひ劇場で確かめてほしい。<舞踏の間>は、今もヴェルサイユに実在すると知り、いつの日かヴェルサイユ宮殿を再訪し、今度こそは一日かけて庭園をじっくり回ろうと心に誓った。
(江口由美)
 
(C) BRITISH BROADCASTING CORPORATION, LITTLE CHAOS LIMITED, 2014
 
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