制作年・国 | 2015年 日本 |
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上映時間 | 1時間56分 |
原作 | 逢坂 剛 「百舌シリーズ」(『百舌の叫ぶ夜』ほか)(集英社文庫) |
監督 | 監督:羽住英一郎 脚本:仁志光佑 音楽:菅野祐悟 |
出演 | 西島秀俊 香川照之 真木よう子 池松壮亮 伊藤淳史 杉咲花 阿部力 伊勢谷友介 松坂桃李 長谷川博己 小日向文世 ビートたけし |
公開日、上映劇場 | 2015年11月7日(土)~全国東宝系にてロードショー |
~闇の中、見えない敵追う執念デカ~
警察最大の敵は内部…昨今、警察映画の“究極”のテーマだ。往年の大ヒット作『踊る大捜査線』で主人公・青島刑事が「事件は会議室で起きてるんじゃない」と叫んだセリフは、以後の“内部犯行”を予告したものだったか。
映画では、古くはアル・パチーノの『セルピコ』(‘73年)が警官汚職の実態に迫って驚かせたが、日本でもその後、警察の不祥事が続出しアメリカに近づいた、と実感させた。リチャード・ギア『背徳の囁き』(‘89年)は、ベテラン刑事(ギア)の悪事が始末に負えないレベルに達していることを見せつけた。日本でも実情を反映して、東映のヒットシリーズ『相棒』で内部の敵を相手にし、先ごろの東宝『アンフェア the end』では検察内部の巨大な闇との戦いを繰り広げた。
逢坂剛原作『MOZU』がテレビで騒がれたのは、ド派手な爆破テロや壮絶な格闘シーンがテレビ離れしたスケールだったことに加え、真の敵が誰か、判然としない“分かりにくさ”にあったのではないか。地上波とWOWOWの連動ドラマという斬新な取り組みが注目されたが、満を持しての『劇場版』に期待が高まる。テレビ版同様、主人公は殺された妻子の謎を追う公安警察官・倉木(西島秀俊)。なりふり構わず謎を探る彼は警察内部に巣くう闇をえぐり出すが、それは大謀略の“氷山の一角”だった。底なしの闇の深さがコワい。
高層ビルがテロリストに占拠され、爆破事件が起こる。一方、ペナム大使館では車が襲撃され、乗っていた少女が誘拐される。二つの事件は“犯罪プランナー”高柳(伊勢谷友介)と実行部隊を率いる殺し屋・権藤(松坂桃李)らテログループの犯行だった。だが、凶悪極まりない彼らの背後には伝説の男・ダルマ(ビートたけし)がいた…。
決して音をあげない倉木のしたたかさが感動ものだ。これまで日本映画には様々なタイプの刑事が登場したが、こんなに固い意思を持ち、体を張ってターゲットを追い詰めていく刑事は初めてではないか。この映画でも、テロ・シーンでのさっそうとした登場から、敵の車内で吊るされ拷問されながら、決してくたばることがない、まさしくダイハード野郎。“巨大な闇”に立ち向かうにはこれぐらいタフでないと務まらない。
倉木と組むのは、公安とは敵対関係の捜査一課元刑事で探偵・大杉(香川照之)。当初反発しながらも倉木と行動をともにしていく。“信頼のバディー”ならぬ“不信関係”が興味深く、彼もまたしたたかにタフだ。倉木と同じ公安捜査官・明星(真木よう子)もまた彼に牽かれるように誘拐犯を追う。この3人がダルマに迫っていくドラマはスリリングこのうえない。
「ダルマとは一体何か?」原作ともテレビドラマとも異なるのはダルマの正体と、その深い闇がくっきりと浮かび上がるところだ。劇場版でやっと姿を現したダルマのビートたけしに羽住監督は「たけしさんしかいないと考えて脚本も書いた。もしダメだったら、ダルマがメインのストーリーはやめよう」とまで思い入れたキャラクター。その存在感は抜群。
「戦後日本の重大事件を影で操ってきた黒幕的存在」…何人か思い浮かべることが出来る実在した影の大物。何か怪しげな事件が起こるたび、その存在が取り沙汰されもした。そんな物凄い大物にたけしの怪演がハマる。そして、こんなバケモノを相手にしなければならない倉木や大杉が気の毒にもなる。
『劇場版 MOZU』では倉木とダルマが、燃え盛る炎に囲まれて対峙するシーンがクライマックス。燃え上がる炎は日本の戦後と、中で蠢いてきた闇を浮かび上がらせる、象徴的シーンでもあった。“影の大物”は本来、画面に登場しないものだが、これがテレビドラマから続いた『MOZU』シリーズの大団円か。
フィリピンロケによる大がかりなド迫力シーンのほかにも、倉木の妻子殺害の謎や、すべて“夢おち”になるかと思わせる“劇場版”ならではの秘策もふんだんで、これで「完結」と安心など出来ない不気味さが『MOZU』なのだろう。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://mozu-movie.jp/
(C)2015劇場版「MOZU」製作委員会(C)逢坂剛/集英社