原題 | Bedone Marz |
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制作年・国 | 2014年 イラン |
上映時間 | 1時間42分 |
監督 | 監督・脚本:アミルホセイン・アスガリ |
出演 | アリレザ・バレディ、ゼイナブ・ナセルポァ、アラシュ・メフラバン |
公開日、上映劇場 | 2015年10月31日(土)~第七藝術劇場、11月14日(土)~神戸アートビレッジセンター、近日公開~京都みなみ会館 |
~国境をこえ、言葉をこえて、つながる心と心~
前半、セリフがほとんどない。場所もわからない。「国境 侵入者には発砲する」という立て看板が、いつ命を奪われてもおかしくない危険地帯であることを示すだけ。まだあどけない表情の少年は、国境の川に浮かぶ大きな廃船に住み、魚や、貝殻のネックレスを売って、たった一人で、たくましく生きている。船からは、時折、国境のフェンスの向こうに兵士たちの姿がみえる。
ある日、国境の反対側から、銃を持った少年兵がやって来る。甲板にロープを張って、境界をつくり、半分を陣取る。文句を言っても、相手はアラビア語、少年はペルシャ語で、通じない。廃材を集めては、出かけていく少年兵を気にしながらも、相手の領域に踏み込まない生活が始まる。
国境の向こうで爆音がした日、船内のどこかから聞こえる赤ん坊の泣き声を探すと、少年兵が赤ん坊を抱いて、うずくまって震えていた。赤ん坊を受け取り、あやす少年。二人の間に、ゆっくりとコミュニケーションが生まれていく。やがて、もう一人、新たな訪問者が現れ、意外な展開へ…。
胸を打つのは、少年の優しい心だ。幼いながらも、弱い者をいたわり、守ろうとする。言語は異なり、会話は成立しない。でも、泣いていれば、悲しみが、苦しみが伝わる。赤ん坊の声が、少年と少年兵の心を通わせるきっかけをつくる。赤ん坊を可愛いと思う心、家族を愛する心は皆同じ。家族を喪う辛さも、戦争を憎む心も変わらない。人間を隔てているのは、国家によってつくられた国境であって、人の心に境界はない。「ボーダレス」というタイトルには、国境がなくなれば、人は幸せに暮らせるはずという希望が込められている。
カメラは、少年が暮らしている廃船周辺と、物を売りに行く川べりから離れることはない。本作は、イランとイラクの国境付近の川で撮影されたが、寓話的な設定で、普遍的なメッセージとして、人間と人間とのつながりについて考えさせる。音楽はほとんどなく、どのシーンも自然で、さりげないゆえに、心の奥深くに響いてくる。暗く無機質な船室の、あちこちの穴から光が差し込み、その軌跡が美しい。船の中を歩く足音、魚が釣れたことを告げる鈴の音が、映画を豊かにする。
ラストショットで映った少年の瞳から、何を想像するだろう。ぜひ映画館で少年の心に寄り添って観てほしい。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒http://border-less-2015.com/
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