原題 | Sils Maria |
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制作年・国 | 2014年 フランス・スイス・ドイツ・アメリカ・ベルギー |
上映時間 | 2時間04分 |
監督 | 監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス |
出演 | ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツ、ラース・アイディンガー、ジィニー・フリン、アンゲラ・ヴィンクラー |
公開日、上映劇場 | 2015年10月24日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、10月31日(土)~京都シネマ、11月14日(土)~シネ・リーブル神戸、ほか全国順次ロードショー |
~分岐点に立つ大女優の迷いと、“女優”を生きる女たち~
2009年のフランス映画祭の団長として来日したジュリエット・ビノシュは、シアターコクーンでアクラム・カーン(振付家&パフォーマー)と二人だけのコンテンポラリーダンス公演をした。45歳にして裸足で踊るジュリエットは、国際的大女優というより新人女優のような初々しさを見せた。映画や芝居だけではなくあらゆるジャンルに挑戦し、必要とあらばどんな国へも出向き、女優としてのリスクを怖れる事なく挑戦し続けるジュリエット。芸術へのあくなき欲求こそ、彼女自身の原動力になっていると感じた。
そんなジュリエット・ビノシュ(51歳)が、本作では、自身を投映しているような“大女優”という役柄を、クリステン・スチュアート(25歳)とクロエ・グレース・モリッツ(18歳)というハリウッドの若手女優相手に、ブライベートフィルムを思わせる自然体の演技で魅了する。それまでのジュリエット・ビノシュ出演作を見ても、彼女の役を生きる勢いは半端ではない。「役が降りてくる」とはこういうことを言うのかと思わせる程だ。
ジュリエット・ビノシュからのオファーを受けたオリヴィエ・アサイヤス監督が自ら書いた脚本は、さらなる演技派を目指す二人の若い女優をジュリエットに対峙させることによって、予想以上の緊張感を生み、「撮影前の脚本とは違うものに仕上がった」という。一言では言い表されない深みと多様性を含んだ作品は、“女優”を生きる彼女たちの世界観で見る者を圧倒する。
原題は、文人・画人に愛されたスイスの山岳保養地の地名「シルス・マリア」。その辺りの特殊な気象現象“マローヤのヘビ”をタイトルにした舞台劇の再演を巡って迷う大女優の繊細な心理状況を捉えている。シルス・マリアの澄み渡る風景や、“マローヤのヘビ”といわれる谷間を雲がヘビのように這う珍しい現象を捉えた美しい映像は、微妙に揺れ動く彼女たちの心情をサスペンスタッチで盛り上げる。
常に冷静な目でマリアを見守り支えたてきたヴァレンティン。時に的確な助言をするが、新たな役柄のイメージが掴めずイラつくマリアには通じない。その後ヴァレンティンがとった行動に背中を押されるように、新たな役柄に挑むマリア。ジュリエット・ビノシュとクリステン・スチュアートとの丁々発止のやり取りは、どこまでが演技の練習なのか、本音なのか分からなくなる。二人の女優と役柄とがダブって見えてしまう迫真の演技は思わず身震いするほどだ。
そこに波紋をおこすように登場するのが、マリアの出世作となった舞台劇『マローヤのヘビ』再演で共演するハリウッドのお騒がせ女優のジョエン・エリスだ。わざわざシルス・マリアまで会いに来て、「尊敬している」とか「あなたに憧れて女優になった」とか言って、それはそれは丁寧な言い方で謙虚さを見せる。ところが、公演前になると殆ど無視。自らのスキャンダル騒ぎで世間の注目を一身に浴びるそのど厚かましさには恐れ入るばかり。かつてのマリアも、相手役の年上の女優を追いやるような勢いを見せていたかもしれない。だが、それが女優と言うもの。新人女優の野心にかつての自分を重ね世代交代に直面する『イヴの総て』や、過去の栄華にとらわれて自分自身を見失う『サンセット大通り』などを思い出した。女優の本質に迫る傑作だと思う。
(河田 真喜子)
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