原題 | THE MAN FROM U.N.C.L.E. |
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制作年・国 | 2015年 アメリカ ワーナー・ブラザース映画 |
上映時間 | 1時間56分 |
監督 | ガイ・リッチー |
出演 | ヘンリー・カビル、アーミー・ハマー、アリシア・ヴィキャンデル、エリザベス・デビッキ、ジャレッド・ハリス、ヒュー・グラント |
公開日、上映劇場 | 2015年11月14日(土)~新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他 全国ロードショー |
~ あゝ、愛しのソロ&クリヤキンが甦った!~
1960年代後半は、ファッション、音楽、映画、ポップカルチャーなどで世界をリードした「スウィンギング・ロンドン」に象徴されるように、イギリス発の「ヒット作」が目白押しだった。その流れに乗じ、あるいは対抗し、アメリカでいろんな「模倣」が生まれた。音楽シーンでは、言わずもがなビートルズに対するモンキーズ、スパイものではジェームズ・ボンドの007シリーズに対するナポレオン・ソロ、電撃フリント、スパイ大作戦……。亜流とはいえ、いかにもアメリカらしい明るい持ち味が活かされ、小学校高学年から中学校にかけて、ぼくはむしろこちらに心が奪われた。
ご年配の方なら、テレビドラマ『0011ナポレオン・ソロ』(1964~68年、日本では1966~70年に放映)を懐かしむ人が多いだろう。主役ソロのロバート・ヴォーンより、相棒イリヤ・クリヤキンのデヴィッド・マッカラムの方に人気が高まり、2人の不仲説が流れたなぁ。マッカラムは名前からして、典型的なスコットランド人。あのころイギリスの何たるかをわかっていなかったので、「スコットランド人とイギリス人はどうちゃうねん?」と頭の中で疑問符がぐるぐる回ったのを覚えている。
そんなことよりも、日本語吹き替えを担当した矢島正明の甘ったるい声と野沢那智の軽妙なセリフ回しに魅了された。丁々発止のやり取りは文句なく最高。授業中、隣の席に座っていた女の子にそのモノマネを披露していたら、「こらっ、なにがソロさんや~!」といきなり先生に出席簿でバシリと頭をはたかれた。『ナポレオン・ソロ』は痛い思い出としてもぼくの記憶にしっかり残っている。
それを半世紀経た今、復活させたのが本作である。「U.N.C.L.E.」のタイトル文字を目にした瞬間、心が躍った。国家の垣根をはずした国際秘密捜査機関の略称。てっきり物語を現代に置き換えたものと思いきや、当時の時代設定だったので安堵した。米ソ東西冷戦最中の1963年。スパイ映画はやはり60年代が一番しっくりくる。アメリカとソ連という二大超大国の対立構図があったからこそ、説得力があり、だからこの時期に『寒い国から帰ってきたスパイ』(65年)のような秀作が生まれた。
冒頭は、東西に壁が張り巡らされたベルリン。冷戦の最前線だ。そこでソロとクリヤキンが初めて出会い、死闘を繰り広げる。前者はCIA(米中央情報局)のすご腕スパイだが、常に斜に構えており、ダーティーなイメージがつきまとう。しかも並はずれたプレーボーイときている。片やクリヤキンはKGB(ソ連・国家保安委員会)の超エリート諜報員。真面目を絵に描いたような堅物で、KGBの幹部になりたがっているけれど、精神的に脆いのが弱点。
全く対照的なキャラクターというのが娯楽作らしくてわかりやすい。宿敵関係にあるソロとクリヤキンが、国際的な犯罪組織に盗まれた原爆のデータ(誰でも簡単に製造できる!)を取り戻すために手を組む。とはいえ、互いに出し抜こうと画策するところがミソ。そこに絡むのが東ベルリンで自動車整備工をしている美貌の女性ギャビー。彼女の父親が元ナチスの天才科学者で、原爆開発に関与している。謎めいたこの女性の正体が、途中からぼくは薄々感じ取っていた。米ソが出てきたら、やはりスパイ映画に欠かせないイギリスを絡ませないと話になりまへんからね。おっと、ネタバレ寸前か……。
イギリス人俳優のヘンリー・カビルがアメリカ人のソロ役、アメリカ人俳優のアーミー・ハマーがロシア人のクリヤキン役、スウェーデン人女優のアリシア・ヴィキャンデルがドイツ人のギャビー役。このように国籍がクロスするキャスティングが面白い。カビルはどことなくロバート・ヴォーンに似ているところもあるけれど、ハマーはあまりにもマッチョかつ剛毅すぎて、デヴィッド・マッカラムのちょっとひ弱な(頼りない?)クリヤキンとはかけ離れていた。そこが売りだったのに……。まぁ、目を瞑ろう。フィクサー的な存在のイギリス海軍中佐ウェーバリーは、とことんイングリッシュ(イングランド人)のヒュー・グラントがまさしく適役だった。
「男と男のダイナミックな関係を描いたジャンルに引きつけられた」(プレスシートより)。ガイ・リッチー監督が言うように、信頼できるパートナーとして緩やかに描かれていたテレビドラマのコンビとは異なり、ここではプロに徹する2人の男のぶつかり合いが映像にしっかり投影されていた。磁気テープやレトロな器材などアナログ世界の中で繰り広げられるアクション。実にテンポが良く、演出もシャープ。ファッション、音楽、調度品その他諸々、時代考証もバッチリだった。さすがガイ・リッチー! ラストの小粋なエンディングがぼくの心を揺さぶった。どんなシリーズになるのか楽しみだ。その中でだんだん2人の関係がこなれ、コミカル的な要素が増えてきそうな気もするのだが……、いかに?
1つだけ気になった点がある。「Russia(ロシア)」や「Russian(ロシアの、ロシア人)」というセリフが多々出てきた。字幕ではそのまま「ロシア」とか「ロシア人」と記されていたが、国家を意味する場合は、あえて「ソ連」と訳してほしかった。「ロシア」ではプーチンの今の国家を思い出す。当時、ソ連の中でロシアが一番大きな共和国だったので、ロシア=ソ連と認識されていたのはよくわかる。あの名作『007ロシアより愛をこめて』(63年)もしかり。イングランド=イギリス(連合王国)と解釈するのと同じことかもしれない。ひょっとしたら、「ソ連」と表記しても、今の日本の若者がピンとこないのではないかと配慮したのかな。でも米ソ冷戦がキーポイントなので、そこは歴史をきちんと踏まえてほしかった。
それにしても、デジタル社会に覆われた昨今を思えば、60年代は何と不便だったことか。連絡を取り合う術をどうするのかがひと苦労だった。この映画の中でも、スマホさえあれば、いとも簡単にコミュニケーションを取れる場面がいくつもあった。でもでも、「昭和」のあの頃を存分に感じさせてくれ、ぼくはウイスキーでほろ酔い気分になったかのように、ええ塩梅で映画を観入っていたのであった。
武部 好伸(エッセイスト)
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