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『先生と迷い猫』

 
       

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作品データ
制作年・国 2015年 日本
上映時間 1時間47分
原作 木附千晶(『迷子のミーちゃん~地域猫と商店街再生のものがたり~』扶桑社刊)
監督 深川栄洋(『60歳のラブレター』『神様のカルテ』『トワイライト ささらさや』)
出演 イッセー尾形(『太陽』)、染谷将太、北乃きい、ピエール瀧、嶋田久作、カンニング竹山、もたいまさこ、岸本加世子、ドロップ(三毛猫)
公開日、上映劇場 2015年10月10日(土)~新宿バルト9、ヒューマントラスト有楽町、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OS、ほか全国ロードショー

 

~野良猫ミイがもたらした贈りもの~

 

ある日突然いなくなった野良猫を捜すうちに、それまであまり知らなかった地域の人々に親しみが沸いてくる偏屈な老先生のお話。1匹の野良猫ミイが関わったいろんな人々の悲喜こもごもが浮かび上がり、いつの間にか猫目線で人間社会を見ていることに気付く。近年大災害に見舞われることが多くなった日本だが、近所同士で助け合ったり、遠方からのボランティアに助けられたりと、その都度人の情けのありがたみが身に沁みてくる。伊豆オールロケの本作は、猫の癒されるような可愛さだけを追っている映画ではない。ミイの気ままなお散歩光景の向こうに見えてくる人情や社会の現状を通して、新たな気持ちで生きようとする人々の姿に勇気付けられる作品である。
 


【STORY】
定年退職した元校長先生の森衣恭一(イッセー尾形)は、妻(もたいまさこ)に先立たれてひとり暮らしをしているが、融通の効かないカタブツでいまだに校長先生というプライドを前面に出して生きている。その偏屈ぶりから妻亡きあと訪ねてくるのは野良猫のミイだけ。時折、役場で働く青年・小鹿祥吾(染谷将太)が写真好きな先生の家に、町のPRに使えそうな写真を探しに来るが、イマドキの若者に関心が持てないでいた。暇さえあれば趣味のロシア文学の翻訳に精を出すが、元教え子の編集者は全く相手にしてくれず、途中で電話を切られる始末。


senseineko-500-3.jpgそんな先生の家に、毎朝勝手に上り込んでは妻の仏壇の前にきょとんと坐っている野良猫のミイ。妻の死を忘れようとしている先生にはそれが辛く、怒鳴り散らしてミイを追い出していたら、ある日ぱったりと来なくなった。妻が可愛がっていたミイの来ない家には光すら射さないほど寂しさが拡がる。居ても経ってもおられずミイを捜しに出ると、美容室の容子(岸本加世子)もクリーニングのバイトをしている真由美(北乃きい)も、名前は違うがミイと同じ三毛猫を捜していた。どうやらミイは、いろんな人と関わってはそれぞれに名前を付けられていたようだ。いじめに遭って死にたいと考えていた女子中学生も、いつもバス停で帰りを待っていてくれる三毛猫に励まされていたのだ。

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定年退職して、子供もいない上に妻に先立たれ、誰とも関わらず、孤独な日々を淡々と生きていた先生。そんな先生が、猫好きの自動車修理工場の男(嶋田久作)に無責任だと叱責されたり、みんなで協力して三毛猫捜しのビラを作ったり、街中を捜し回ったりと、今まであまり経験のないことをしながら、頑なな気持ちが徐々に変化してくる。浮いた存在だった先生を演じたイッセー尾形の狼狽ぶりに、可笑しみや悲哀を感じたりと、しみじみと心に響いてくる。イマドキの若者を演じた染谷将太の自然体の演技がまた温もりを感じさていい。家には時々徘徊する認知症の祖母がいて、優しい孫の顔も見せていた。

senseineko-500-1.jpgラストシーンの光の変化で先生の未来を雄弁に語ってみせた、心にくい演出が光った深川栄洋監督。NHK朝の連ドラ『あまちゃん』にも出演していた三毛猫のドロップが1匹で演じたミイの動向や、猫と同じ目線で捉えた映像が素晴らしい。川べりを悠々と歩くミイの姿を捉えたシーンは特に大注目! また、伊豆地方の豊かな緑の中で繰り広げられる個性的なキャラクターたちの連携は、思わず参加したくなるような魅力的なコミュニティを創り上げていた。

(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://www.sensei-neko.com/

(C)2015「先生と迷い猫」製作委員会