映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『罪の余白』

 
       

tumiyohaku-550.jpg

       
作品データ
制作年・国 2015年 日本 
上映時間 2時間
原作 芦沢 央「罪の余白」(角川文庫)
監督 大塚祐吉
出演 内野聖陽、吉本実憂、谷村美月、葵わかな、宇野愛海、吉田美佳子、堀部圭亮、利重 剛、加藤雅也
公開日、上映劇場 2015年10月3日(土)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(なんば、二条、西宮OS) 他全国ロードショー

 

~美しきモンスター女子高生 vs 罪を償わせようとする父親~

 

生きている人間ほど恐ろしいものはない。嫉妬、憎悪、怨念、猜疑心、傲慢、執着、強欲、殺意、などと人間の心がもたらす悪意には際限がない。『罪の余白』では、人の心をコントロールする女子高生の傲慢さに戦慄を覚えた。それを演じた吉本美憂の冷酷さを秘めた繊細で美しい表情にも驚愕し、強靭な存在感の内野聖陽との対峙に息をのむ。超常現象も殺人シーンもない映画なのに、これほど恐怖を感じたことはない。
 



tumiyohaku-500-1.jpg【STORY】
一人娘の加奈(吉田美佳子)が教室のバルコニーから転落して死んだ。事故か自殺か。悲嘆にくれる父親・聡(内野聖陽)の元に笹川と名乗るクラスメート(吉岡美憂)が弔問に訪れる。本当の目的は加奈が付けていた日記帳を探しに来たのだ。そこに書かれていたものとは?―― 妻に先立たれ、男手ひとつで娘を育ててきた聡。大学で行動心理学を教えている聡は、娘とも仲良く暮らしてきた。だが、気付いてあげられなかった娘の内面の変化、さらに守ってあげられなかった父親の後悔の念は、やがて彼を復讐へと駆り立てる。


tumiyohaku-500-2.jpg加奈が親友になりたがっていた咲というクラスメートは、美人で成績も良く皆の憧れの的で、クラスメートにも教師に対しても完璧ないい子に映っていた。美しく聡明な顔をして悪魔のように人の心を弄ぶ。直接手は下していないものの、心理的に追い詰めていったのだ。だが、加奈をベランダの手すりに上らせた確証はない。逆に咲は、執拗に問い詰める聡の悪評を立て、さらに暴力事件を起こすよう仕向けて社会的に葬ろうとする。聡は、恐ろしく頭のいい咲の罪の立証は無理だと悟ると、全く予期せぬ行動に出る……。
 



tumiyohaku-500-3.jpg咲という女子高生の傲慢さを表わすシーンが特に興味深い。加奈がベランダで危険な行為をするよう仕向けるのに、本当の親友として試すような言葉を投げかける。加奈が落ちる瞬間には、真剣な驚きと悲しみの表情を見せる。「まさかこんなことになるなんて…」的な。なぜ一番仲の良かった加奈を追い詰めたのか。それは咲が女優になりたいと加奈にだけ打ち明けた時の反応が、咲のプライドを傷つけたのだ。それだけの理由で、加奈を死に追いやるとは……。


聡の同僚の心理学者・小沢早苗(谷村美月)の存在が面白い。聡を心配して手料理をせっせと差し入れるのだが一向に食べてくれない。咲と面談した時には、地味でダサい早苗に対して、まるで赤子の手をひねるような態度であしらう咲の高慢さに、思わず吹き出してしまった。それでも早苗は、表情ひとつ崩さず冷酷な態度をとる咲の本性に初めて触れた大人なのかもしれない。ひどく打ちのめされながらも、聡のために真相を突き止めた早苗。谷村美月の頼りなげな心理学者ぶりが、緊迫した物語の癒しになっていた。


tumiyohaku-500-4.jpgいつもは力強い役の多い内野聖陽だが、娘の突然の死を受け止めるのに必死の弱々しい父親像を見せている。「真相を知りたい!」と駆け回る姿も哀れだ。まさかモンスターのような女子高生が存在するとは―― 咲の本性を知ってからの父親像はさらにヒートアップする。想像を絶する決死の行動に出るまでの父親の本心を隠した演技に、すっかり騙されてしまった。人間味のある内野聖陽の演技と、緩急つけた大塚祐吉監督の演出に、終始前のめりになって見入ってしまった。

(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://tsuminoyohaku.com/

(C)2015「罪の余白」フィルムパートナーズ

カテゴリ

月別 アーカイブ