原題 | Who Am I - No System Is Safe |
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制作年・国 | 2014年 ドイツ |
上映時間 | 1時間46分 |
監督 | バラン・ボー・オダー |
出演 | トム・シリング(『コーヒーをめぐる冒険』)、エリアス・ムバレク、ハンナー・ヘルツシュブリンク(『4分間のピアニスト』)、トリーネ・ディアホルム(『未来を生きる君たちへ』『愛さえあれば』) |
公開日、上映劇場 | 2015年9月12日(土)~武蔵野映画館、9月26日(土)~梅田ブルク7、T・ジョイ京都 ほか全国順次公開 |
~「絶対にだまされない!」という自信を打ち砕かれる快感~
いまドイツ映画の勢いが止まらない!この2か月だけでも、『ふたつの名前を持つ少年』『あの日のように抱きしめて』『ぼくらの家路』『ヒトラー暗殺、13分の誤算』『顔のないヒトラーたち』と、どれも社会性や人間ドラマが融合した圧倒的映像力で魅せる衝撃作ばかり。そう、一度見たら忘れられない、心に何らかの印象を残す作品が多い。そして、今度は天才ハッカーの挑戦状『ピエロがお前を嘲笑う』が、「絶対にだまされない!」というあなたの自信をことごとく打ち砕く。最後の最後まで目を離さずに見るべし!
【STORY】
ひとりのハッカー:ベンヤミン(トム・シリング)が警察に出頭したところから物語は始まる。不用意なハッキングによって殺人事件が発生し、自分の身も危なくなって自首してきたのだ。ドイツ連邦情報局の捜査官(トリーネ・ディアホルム)相手に、生い立ちから事件の顛末に至るまでを詳細に語り始める。だが、どこか疑問が残る。自白の真偽確認捜査を同時進行させ、関係する容疑者を次々に摘発していく。こうして世間を騒がせ国際手配されたハッカー集団の摘発は順調に進むかに思えた。
両親からも見捨てられ、一緒に暮らしていた祖母も亡くなり孤独のどん底にいたベンヤミン。片思いの女の子のために答案データを盗んだことで捕まり、社会奉仕活動(清掃)をさせられる。その際に知り合ったマックス(エリアス・ムバレク)に自分のハッカーとしての才能を見出され、仲間を紹介される。こうして始まった、ハッカー集団「CLAY」による政界、金融業界、連邦情報局などへの破壊活動が世間の注目を浴びるようになる。そして、闇のハッカー集団との競争から、危険ゾーンへと足を踏み入れていく。
ドイツ映画には『e’s(エス)』や『THE WAVE』のように心理実験を扱ったスリリングな名作があったが、本作も多重構成からなるストーリーをスピーディーなタッチで描いて見る者の心を攪乱していく。1回見ただけでは、あっけにとられるだけで終わってしまうかもしれないので、2回見た方がいいかも。特に、トリーネ・ディアホルム演じる女性捜査官と、トム・シリンク演じる天才ハッカーとの緊迫した駆け引きには息をのむ。
「静」と「動」のシーンとのコントラストや、鋭い眼光の強靭なトリーネ・ディアホルムに圧倒されそうな小柄なトム・シリングのいかにも脆弱な風体の対比が面白い。スサンネ・ビア監督作ではおなじみのデンマークの名女優をこの役にキャスティングした妙は心憎いほどだ。また、『コーヒーをめぐる冒険』で一躍日本でも顔が知れ渡ったトム・シリングの、巻き込まれ型の気弱なキャラにも惹き付けられる。
孤独な者同士が集まって、身にかかる火の粉を払おうとして事件が起きたのか、最初から台本に乗っ取って演じていたのか―― ベルリンを舞台に、ネット社会に埋没して生きる若者の起死回生の大勝負に挑んだ痛快アドベンチャースリラー。ハリウッドでのリメイクも決まっているようだが、本作が長編監督2作目というバラン・ボー・オダー監督のスタイリッシュな展開と斬新な感覚も大きな魅力になっているので、ドイツ映画の本作をじっくりとご堪能いただきたい。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://pierrot-movie.com/
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