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『白い沈黙』

 
       

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作品データ
原題 THE CAPTIVE
制作年・国 2014年 カナダ 
上映時間 1時間52分
監督 アトム・エゴヤン
出演 ライアン・レイノルズ、スコット・スピードマン、ロザリオ・ドーソン、ミレイユ・イーノス、ケヴィン・デュランド、アレクシア・ファスト他
公開日、上映劇場 2015年10月16日(金)~TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ二条、TOHOシネマズ西宮OSほか、近日全国順次公開

 

~ある日忽然と消えた娘、その謎と家族の分断を描くスリラー~

 

冒頭、いちめんの雪景色。ゆっくりとその雪景色が転回する。そして、その真っ白さがじわじわと怖くなってくる。ああ、アトム・エゴヤンの世界だなと思う。ここで、彼の『スウィート ヒアアフター』を連想する人は多いのではないだろうか。そうして物語が始まるのだが、最初はとまどうかもしれない。いや、大いにとまどうだろう。ある家族に関係する話なのだが、全く何の説明もなしに、時系列を無視して語られていくのだから。


siroichinmoku-500-1.jpgどこかの家に軟禁されているらしいティーンエイジャーの少女がいる。同じ家の別の部屋では、中年の男が、ある部屋を監視しているらしいカメラの映像をじっと見つめている。この二人はどういう関係なのか。そう思っていたら、いきなり別の話が割り込んでくる。小さな娘を車の中に置いたまま、父親はチェリーパイを買うためにダイナーの店内に入って行くのだが、戻ってくると娘はいない。どんなに探しても、娘の行方はわからず、それが原因で妻にも自分自身にも責められ、とうとう彼は妻と別居。それから8年の歳月が流れていき、最初に出てきたティーンエイジャーの少女の正体がゆるりと示される。


本作の醍醐味はいろいろあるのだが、監視カメラというツールを用いた“観る者と観られる者”という構造、そして彼ら両方を観ている我々観客という立ち位置を改めて意識させるのが面白い。また、未成年者の性犯罪に関わる女性刑事の過去のトラウマが濃密に絡んでくるのも実に巧い展開だと思う。


siroichinmoku-500-2.jpg日本でも、いまだに行方不明の子どもを持つ親がいる。彼らはどこへ行ってしまったのか。長い歳月、止まったままの家族の時間を想う。この映画のホシの不気味さ、それでいて、極悪人として描かないところが、ハリウッド的スリラーとは違うアトム・エゴヤン流だ。歪んだ価値観、尖った神経が生み出す妄想といびつな欲望、そして、組織犯罪の恐ろしさ…。あってはならない犯罪なのだが、もう一つ突っ込んで、なぜそういう犯罪が起こるのかと我々に考えさせる。どういう状況が用意されると、どのようにしてその芽が出てくるのか、と。


柔らかなトーンのハッピー・エンドが用意されているけれど、実際に起きた事件でもいつも想うのは、誘拐されて戻ってきた人、とりわけ女性であるならば、その人のその後である。地域コミュニティは優しいだろうか。或る刻印をつけられた人をけして忘れはしないという酷さを持っているのではないか。そういう意味でも、ここには描かれていないスリラーを感じて、さらに怖くなるのだ。

(宮田  彩未)

公式サイト⇒ http://shiroi-chinmoku.com/

(C)Queen of the Night Films Inc.