原題 | St. Vincent |
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制作年・国 | 2014年 アメリカ |
上映時間 | 1時間42分 |
監督 | 監督・脚本・製作:セオドア・メルフィ |
出演 | ビル・マーレイ メリッサ・マッカーシー ナオミ・ワッツ クリス・オダウド テレンス・ハワード ジェイデン・リーベラー |
公開日、上映劇場 | 2015年9月4日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ新宿、TOHO(梅田・なんば・二条・西宮OS)、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー |
~生きてきた時代がにじむ、ビル・マーレイの“ちょい悪ジジイ”ぶりがいい~
どんな人でもそれまでの人生に何かしらの物語があっただろう。愛し愛され輝いていた時もあったかもしれない。本作の主人公・ヴィンセントのように、家に猫とストリッパーしか寄せ付けず、競馬とお酒が大好きで、いつもヨレヨレの恰好で古いオープンカーを乗り回しているような偏屈ジジイでも、誰かにとっては大切な存在なのだから。それにしても、子供は大人に面倒みられているようで、時に大人の真価を読み取っているようだ。ひ弱でナイーブな少年が見つけたヴィンセントの“いいところ”は、彼の人生を再び輝かせ、少年自身も成長していく。とても共通点など無さそうなジジイと子供だが、二人のナイス・バディぶりは、見ているこちらまでハートウォーミングな気分にさせてくれる。
何と言っても、ヴィンセントを演じたビル・マーレイの“ちょい悪ジジイ”ぶりがいい。平気でズルしたり毒舌を吐いたりするが、他人の目を気にしたり見栄を張るようなことはない。それでも、自分のライフスタイルをマイペースに送る豪放磊落(ごうほうらいらく)なあたりは、かつての男らしいカッコ良さを感じさせる。そう、それまで生きて来た時代がにじむような雰囲気がより魅力的に感じさせるのかもしれない。コミカルな『ゴーストバスターズ』シリーズや『ブロークン・フラワーズ』のようなシリアスものまで、人間味たっぷりに演じるビル・マーレイの新たな代表作の誕生。
対する、ヴィンセントの隣に引っ越して来たシングルマザーのマギー(メリッサ・マカーシー)と12歳の息子オリバー(ジェイデン・リーベラー)も負けてはいない。到着するなりヴィンセントの庭の塀を壊したとして弁償を迫られるという最悪な初対面だったが、仕事が忙しいマギーは仕方なくヴィンセントにオリバーのシッターを時給12ドルで頼む。(ヴィンセントの抜け目なく値を釣り上げるところは憎たらしい) 『ブライズメイズ 史上最悪もウェディングプラン』『デンジャラス・バディ』など爆笑女優のメリッサ・マッカーシーがコメディを封印して、子供を手放したくない母親を切々と演じている。その分、孤独なヴィンセントとオリバーの友情を際立たせている。
ヴィンセントは、転入早々イジメの洗礼を受けたオリバーに、体の小さいオリバーに合った撃退法を伝授する。オリバーは見事いじめっ子をやっつけて、転じて友だちを作る。さらに、ヴィンセントはオリバーを行きつけのバーや競馬場へ連れって行ったりする。オープンカーに乗っているオリバーは、それまでの内向的な自分を開放させているようで、とても楽しそうだ。また、病気の妻が入所している老人ホームへ一緒に見舞いに行ったり、時々やって来る“夜のお友達”ダカ(ナオミ・ワッツ)を紹介したりする。ナオミ・ワッツが腹ボテのロシア人ストリッパーを演じて、意外な笑いを誘う。
そして、「身近にいる聖人のような人」というタイトルの作文の宿題に挑むオリバー。子供の前でもお構いなく酒を飲みタバコを吸い毒舌を吐くヴィンセントだが、隠れた善の顔をオリバーは知っていた。子供出入り禁止の場所でも平気で連れて行き、飾らない性格、オリバーにとっては、ヴィンセントと一緒の時は冒険の時であり、孤独を忘れさせてくれるかけがえのない楽しいひと時となっていた。オリバーを演じたジェイデン・リーベラーの、12歳にしては華奢でひ弱そうなところが、ビル・マーレイとは対照的で可愛い。何といってもあのピュアな表情でヴィンセントを見つめる姿勢がいい。子供なりに大人の事情を冷静に汲み取ろうとするジェイデンの利発さがこの物語を盛り上げている。
そして、ヴィンセントが借金取りに追われて心臓発作で倒れたり、マギーはオリバーの親権を争う裁判で不利になったり、ダカはいよいよお腹が大きくなって仕事をクビになったりと、いろんなゴタゴタ続きの果て、いつの間にか、ヴィンセントを家族のように心配して寄り添う姿がそこにはあった。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://www.vincent.jp
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