原題 | Nightcrawler |
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制作年・国 | 2014年 アメリカ |
上映時間 | 1時間58分 |
監督 | 監督:ダン・ギルロイ 撮影監督:ロバート・エルスウィット 脚本:ダン・ギルロイ |
出演 | ジェイク・ギレンホール/レネ・ルッソ/リズ・アーメッド/ビル・パクストン |
公開日、上映劇場 | 2015年8月22日(土)~ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ シネ・リーブル梅田、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸 他全国順次ロードショー |
~衝撃的ならエエ…モラル不在の映像戦争!~
「新聞は正義」と素朴に信じられた時代、何度か映画の主役を新聞記者が務めたこともある。終戦直後、不可解な謎が残る「松川事件」や「下山事件」などで“ブンヤ”が正義を体現する主人公になった。左翼独立プロ全盛期、最も明快だったのが山本薩夫監督の大映『暴力の街』(50年)だ。 GHQ占領下の地方都市・埼玉県本庄市で暴力団被害の実態を告発した実録映画。原作は「朝日新聞浦和市局同人」。つまり、支局記者が取材したルポルタージュがそのまま映画になった。「日本映画演劇労働組合」と「日本映画人同盟」の共同製作の映画は「ようやった」と拍手ものの力作。
戦争への反省から、日本中に民主化が叫ばれた時代、新聞は「社会の木たく」だった。それもつかの間、1950年に朝鮮動乱が勃発、GHQは方針変更し、日本も一変して“右傾化”した。この映画公開後にレッドパージ(赤狩り)も始まった。“時代の変わり目”だった。
私事で恐縮だが、高校時代から「新聞記者志望」だった。スポーツ紙ゆえ、正義の味方にはほど遠く、芸能や野球部門を長く担当したが、シニア世代として“新聞は正義”の思い入れが残る。だが、マスコミの王座はとっくにテレビに明け渡し、今ではネットの方が「詳しいし面白い」というネット世代も多い。マスコミの牙城はもう崩壊したのかも知れない。
米映画『ナイトクローラー』を見れば、つくづくそう思う。マスコミ信仰をあざ笑うテレビ業界裏話。正義や倫理などどこ吹く風。「興味は映像の衝撃度と金額だけ」という映像フリーター“ナイトクローラー”のやりたい放題は衝撃的。「スクープ優先」の実態が凄まじい。
元コソ泥でまともな稼ぎのないルー(ジェイク・ギレンホール)はある夜、通りかかった交通事故現場で探し求めていた“天職”を見つける。事故を漁るように撮影していた“映像パパラッチ”通称ナイトクローラーだ。
撮った映像がテレビ局に高値で売れると知ったルーは、盗んだ自転車と交換に、商売に不可欠のビデオカメラと無線傍受器を入手、警察無線を盗聴してはパトカーより早く現場に急行、衝撃的で悲惨な映像をものにしてテレビ局に売り込む。テレビ局“KWLA6”には視聴率アップに燃える女性ディレクター、ニーナ(レネ・ルッソ)がいて、ルーに「欲しいのは刺激的な画、被害者は郊外の富裕な白人、犯人は貧困なマイノリティ」と要望を出す…。 「ニュース報道はどうあるべきか」などと大上段に振りかぶるつもりはないが、配慮も遠慮もあらばこそ「ここまでやるか」と新型“映像ジャーナリズム”に唖然とする。マスコミ報道は落ちるところまで落ちた、か。
パパラッチとは本来、芸能人や有名人に密着マークして、ゴシップ紙に売るカメラマンのことだが、事件・事故専門の映像屋も登場したか、と暗嘆たる思いにかられた。フリー・ジャーナリストとして「スクープへの思い入れ」は分かる。「他の誰も知らない」特ダネ、その快感は一度味わったら忘れられない。誰も関心なくても、自分だけが知っている…。
ルーもまた、必然的に「特ダネ」の危険な誘惑に牽かれて正常な感覚をなくしていく。その怖さ。偶然、いち早く乗り込んだ現場でスクープ映像をキャッチしたまではよかったが、逃げ出す犯人と車を目撃し、警察の先を越すべく、独自で犯人を追ったのは、トップ屋の習性か、危険な誘惑か。
刺激的な映像だけを求めて日夜、警察無線の盗聴に血道をあげるジャーナリスト、って一体どんな商売なんだ?
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://nightcrawler.gaga.ne.jp
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