原題 | Tracks |
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制作年・国 | 2013年 オーストラリア |
上映時間 | 1時間52分 |
監督 | ジョン・カラン |
出演 | ミア・ワシコウスカ,アダム・ドライバー |
公開日、上映劇場 | 2015年8月15日(土)~シネ・リーブル梅田、8月29日(土)~109シネマズHAT神戸 ほか全国順次公開 |
~約半年で砂漠を横断する旅に人生を見る~
1975年,オーストラリア中央部のアリス・スプリングス。ロビン・デヴィッドソンという女性がやって来た。黒い影が歩いているような映像で,どこか知らない世界へ導かれる不安と期待が生み出される。ディギティという黒い犬が列車の座席に座っている姿にも,一風変わった感覚が呼び起こされる。彼女は愛犬とともに砂漠を横断する旅に出ようというのだ。彼女が旅の準備のため4頭のラクダを調達する過程と,その旅の顛末が描かれる。
彼女は,働きながらラクダの扱い方を学習するが,相当な粘り強さで困難を乗り越えていく。ラクダをもらう約束を反故にされても「一つの場所に行き詰まったら思い切って飛び出す」という精神で前進する。何が彼女を突き動かしているのかは,理屈ではなく感性で示される。彼女の過去に何があったのか,何のために苛酷な旅に出るのかについては,多くの説明はない。彼女が過去の苦痛に耐えながら自分の人生を歩んだことだけは確かだ。
彼女は,1977年4月9日父と姉に見送られて旅を始め,195日目に西海岸の青い海と浜辺を目にするまで砂漠を歩き続ける。断片的に示される過去の記憶から,母が自殺し,おばの家に行くことになり,愛犬ゴールディと引き離されたことが分かる。これだけでも,ロビンに扮したミア・ワシコウスカの姿を見ていると,いま旅を続けるロビンの心情がひしひし伝わってくる。その奥深い表現力を堪能できただけも,掛け替えのない体験をした思いがする。
そのミステリアスな雰囲気を漂わせる姿には,人生で体験する寂寥感が滲み出ている。苛酷な旅をしたからといって満足が得られるわけでないとしても,旅を続けなければならない。コンパスを紛失して方向を見失うことや,新たな喪失に見舞われることも避けられない。広大な土地の中で一人の人間は無力だが,他の人たちに癒されることもある。彼女の姿から目が離せなくなるのは,ラクダとの旅が人生そのものを象徴しているからである。
(河田 充規)
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