原題 | Bolshoi Babylon |
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制作年・国 | 2015年 イギリス |
上映時間 | 1時間27分 |
監督 | ニック・リード |
出演 | マリーヤ・アレクサンドロワ(プリンシパル),アナスタシア・メーシコワ(ファースト・ソリスト),マリーヤ・アラシュ(プリンシパル),セルゲイ・フィーリン(ボリショイ劇場バレエ芸術監督),ウラジーミル・ウーリン(ボリショイ劇場総裁),ボリス・アキモフ(バレエ・マスター),ニコライ・ツィスカリーゼ(元プリンシパル) |
公開日、上映劇場 | 2015年9月19日(土)~Bunkamuraル・シネマ、9月26日(土)~シネ・リーブル梅田、10月3日(土)~シネ・リーブル神戸、10月10日(土)~京都シネマ ほか全国順次公開 |
~ボリショイに象徴されるロシアの奥深さ~
ボリショイ劇場は,ソ連時代には大勢の国賓が訪れる社交の場で,神々の住む山オリンポスというべき存在だったようだ。しかし,2013年1月に芸術監督セルゲイ・フィーリンが顔面に硫酸を浴びせられ負傷する事件が起きる。バレエ団の内部対立が表面化したと言われ,華麗で悪徳の栄えた都バビロンと評された。表面的には華やかで繁栄しているが,その裏側では嫉妬や偽善が渦巻いている。街を歩く人々は,誰もが無表情のように見える。
サスペンスタッチの映像に,ミステリー調の音楽が被さり,タイトルが示される。“愛憎と裏切りが渦巻く三角関係に,権力者の陰謀が絡んだ一大スペクタクル”と紹介される「ラ・バヤデール」のシーンは,主題を提示しているようだ。3月にはパーヴェル・ドミトリチェンコ(ファースト・ソリスト)が首謀者として逮捕された。彼が事実上の妻の配役をめぐってセルゲイと敵対関係にあったと説明されるが,それが真相かどうかは不明だ。
我が国の新聞でも,背後に黒幕がいるとの説は消えず,謎は逆に深まっていると報道された。団員はセルゲイ派とパーヴェル派に二分され,出演者と管理側の対立も深まり,ボリショイ劇場の威光は失われる。抜本的な解決のためには豪腕の持ち主が必要とされ,ウラジーミル・ウーリンが総裁に起用される。セルゲイがかつてモスクワ音楽劇場の芸術監督を辞任したとき,ウーリンとの間に確執が生じたことが明らかになり,緊張感が高まる。
登場人物は誰もが正直に話しているようにも聞こえる。だが,私達は感情を出さないように訓練されるとか,昔からロシア人は指導者を信じないとかいう台詞が出てくる。終盤が近付くに連れて,冒頭で映された人々の無表情が想起される。ボリショイ劇場がロシアの縮図だとすれば,誰も心情を吐露していないようにも思える。ただ,最後の「アパルトマン」でマリーヤ・アレクサンドロワの復帰が映され,希望が残っていることが示された。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://www.bolshoi-babylon.jp/
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