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『あの日のように抱きしめて』

 
       

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作品データ
原題 Phoenix
制作年・国 2014年 ドイツ 
上映時間 1時間38分
監督 クリスティアン・ペッツォルト
出演 ニーナ・ホス、ロナルト・ツェアフェルト、ニーナ・クンツェンドルフ 他
公開日、上映劇場 2015年8月15日(土)~Bunkamuraル・シネマ、8月29日(土)~テアトル梅田、京都シネマ、9月12日(土)~シネ・リーブル神戸ほか全国順次公開

 

~失われた愛の刻印を、傷だらけの心身で探し求める女~

 

ナチスによる暴虐について、けして忘れてはならないと、手を変え品を変え、伝え続けようとするドイツ。自国の歴史の恥部は隠すか認めようとしないどこかの国とは大違いだが、またひとつ、胸を穿つようなナチスがらみの映画がドイツから届けられた。監督は『東ベルリンから来た女』のクリスティアン・ペッツォルトで、同作と同じ俳優を主演に起用している。彼が「これは本質的にフィルム・ノワールだ」と言ったように、謎めいたサスペンスフルな雰囲気と、色調の繊細さが印象に残る。最近では珍しくなったフィルムで撮影されたということにも、監督の強いこだわりがあったようだ。


anohi-500-1.jpg物語はドイツ降伏後の1945年6月、顔に包帯をぐるぐる巻かれた女ネリーと、彼女を乗せた車を運転する親友のレネがドイツに戻るところから始まる。ユダヤ人のネリーは聖歌隊の声楽家で結婚もしていたが、収容所送りになり、そこで顔に大きな傷害を受けたのだった。顔の修復手術を受け、傷が癒えた頃、ネリーは夫ジョニーの居所を探そうと思うが、レネから「彼は裏切り者よ」と反対される。それでも、幸せだった昔を取り戻したいと願うネリーはやっとジョニーを見つけるのだが、妻は死んだと信じている彼は、容貌の変わったネリーが誰だかわからない。おまけに、とんでもない提案をしてくるのだった…。
 

anohi-500-2.jpgちょいとツッコミを入れると、容貌が変わったらその人が誰なのか認識するのはなかなか難しいだろうが、一緒に暮らしていた妻である。声のトーンや喋り方、歩く時の姿勢、体臭など、変えようのないその人らしさで「ん?」と思うはずなんだけど、このジョニーはかなりの鈍感人だ。妻の筆跡を真似せよと命じてその結果を見た時でも、簡単にスルーしてしまう。ま、すぐにわかればまた別の話になってしまうし、それによってジョニー自身の“秘密”もどこかへ飛んでいってしまうので、彼の鈍感ぶりには目をつぶらざるを得ないのかもしれないけれど。


そんな鈍感な夫に注がれるネリーのまなざしがまた悲痛の色を帯びていて、この映画のテーマソングのように流れる名曲『スピーク・ロウ』のもの悲しさと重なってくるのである。監督はこの曲にさまざまな想いをこめているようだが、作品のなかではほとんど説明をしない。話の展開でも、観るほうがあれこれと想像する部分を残している。ジョニーが働くクラブの名前が不死鳥を意味するPhoenixで、それが原題でもあること、また最後にネリーが『スピーク・ロウ』を歌ったその後、彼女はどうしたのか、これもまたぜひ各自で想像をめぐらせてほしい。

(宮田 彩未)

公式サイト⇒ http://www.anohi-movie.com/

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