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『夏をゆく人々』

 
       

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作品データ
原題 Le Meraviglie
制作年・国 2014年 イタリア=スイス=ドイツ
上映時間 1時間51分
監督 アリーチェ・ロルヴァケル
出演 マリア・アレクサンドラ・ルング、サム・ルーウィック、アルバ・ロルヴァケル
公開日、上映劇場 2015年8月22日(土)~岩波ホール、9月5日(土)~テアトル梅田、今秋~シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国順次公開
受賞歴 第67回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞
 

~自然派養蜂一家にさざ波が立つ、長女ジェルソミーナ17歳の夏~

 
大事な秘密を明かすかのように、手で覆っていた口をそっと開く少女。その舌の上には、彼女が飼っている蜂が一匹じっと潜んでいた・・・。
映画史に残るのではと思うぐらい、観た瞬間、脳裏に焼き付くようなショットに出会えた歓びは、格別だ。監督は、母アンジェリカを演じたアルバ・ロルヴァケル(『ボローニャの夕暮れ』)の実妹、アリーチェ・ロルヴァケル。イタリア・トスカーナ地方、ひっそりとした海辺の町を舞台にした養蜂一家の夏物語は、一家が抱えるリアルな状況を描きながらも、幻想的なシーンやモチーフを忍ばせ、まるで17歳の夏を追体験しているかのような瑞々しい気持ちにさせてくれる。しかも、長女の名は、フェデリコ・フェリーニ監督作品の『道』と同じ「ジェルソミーナ」。イタリア映画好きなら夢見心地になりそうな映画の魔法にも、酔いしれてほしい。
 
ドイツ人の父、ヴォルフガング(サム・ルーウィック)と母アンジェリカ(アルバ・ロルヴァケル)、長女ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)を筆頭にした四姉妹の一家は、昔ながらの方法で養蜂を営んでいた。男手がない中、ジェルソミーナは父の信頼も厚く、養蜂技術を教え込まれていたが、ある日少年更生プランの一環で、ドイツ人の少年マルティンが預けられ、一家に少しずつさざ波が立ち始める。
 
 
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一家の営みは、近代的な方法に抗う、偏屈なまでの信念の持ち主である父、ヴォルフガングを中心に回っている。そんなヴォルフガングの苦労の結晶である蜂蜜は、ジェルソミーナにとっても誇りだ。だが、「一滴も無駄にするな」と念を押された父の留守中に、床を蜂蜜だらけにしてしまい、重責を背負った長女ならではの焦りが、痛いほど伝わってくる。また、ヴォルフガングは、大金をはたいてラクダをジェルソミーナにプレゼントするが、ラクダを欲しがったのはまだ小さい頃の話で、妻は無謀な買い物に落胆する。彼の思い込みによる行動が、図らずしも家族を振り回し、楽しい夏に翳りが射す瞬間だ。アリーチェ・ロルヴァケル監督は、揺れる家族の日常を細やかに描き、その手腕を見事に発揮している。
 
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マルティンが家族の一員として扱われるようになって巻き起こるさざ波を描く一方で、非現実的なひと夏の出来事として描かれるテレビ番組「ふしぎの国」への出演が、物語のトーンを大きく変えていく。ジェルソミーナが父の反対を押し切ってでもやり遂げようとした番組出演。そのきっかけとなった司会者のミリーを演じるモニカ・ベルッチの神々しさは、『甘い生活』の名シーンを想起させ、かつ、ジェルソミーナにとって新しい世界への窓的役割を果たしている。また、エトルリア古代遺跡がある島の洞窟テレビロケシーンは、伝統衣装を身に着けたジェルソミーナ一家とマルティンらのプレゼンテーションだけでなく、エトルリア伝承の歌や踊りも披露され、神秘的な世界に誘われるのだ。長女の重責を払いのけ、好奇心に突き動かされていくジェルソミーナをはじめ、 “ひと夏”を越えた家族の姿はとても頼もしく、そして私にとっても忘れられない夏物語になった。
(江口由美)
 
公式サイト⇒http://www.natsu-yuku.jp/
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