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『世界で一番いとしい君へ』

 
       

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作品データ
原題 MY BRILLIANT LIFE
制作年・国 2014年 韓国 
上映時間 1時間57分
原作 キム・エラン著『どきどき僕の人生』クオン刊
監督 イ・ジェヨン
出演 カン・ドンウォン、ソン・ヘギョ、チョ・ソンモク、イ・ソンミン、キム・ガプス 他
公開日、上映劇場 2015年8月29日(土)~シネマート新宿、シネマート心斎橋、9月19日(土)~京都みなみ会館、今秋~元町映画館他全国順次公開
 

~17歳で親となったパパとママの青春が、僕の青春になる~

 
16歳のアルムと、17歳で親となり、現在33歳のパパとママ。友達のように見える親子だろうと思いきや、アルムのパソコンを打つ手が映った瞬間に一家のこれまでの葛藤が頭の中を駆け巡る。役作りのため10キロ増量したというカン・ドンウォン、『グランド・マスター』のソン・ヘギョが両親に扮し、特別な我が子と懸命に生きる日々を瑞々しく描いた家族物語。特殊メイクを施された中で、身体は老人、心は青年のアルムの内面を表現する新星チョ・ソンモクの演技にも注目したい。
 
テコンドーの選手を目指していたデス(カン・ドンウォン)と、アイドル志望のミラ(ソン・ヘギョ)は運命的な出会いを果たし、17歳でアルムを授かる。先天性早老症という身体が急速に老いる難病のため、学校にも行けないアルムは作家を夢見て、両親のことを書いていた。ある日、アルムを取材した番組がオンエアされ、多大な寄付金が寄せられるだけでなく、アルム宛に16歳の少女からメールが届くのだったが・・・。
 
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若くして親となり、懸命に子育てをしてきたデスとミラ。我が子が難病でも、明るさを絶やすことがない。アルムと一緒にアイドルを見てテンションを上げたり、流れ星を見て語り合ったり、カン・ドンウォンが演じる父親は3枚目の面を大いに持ち合わせながら友達のようなフラットで心温まる関係を築いていく。一方、ソン・ヘギョ演じる母親は、父親が能天気な分しっかり者で、常に息子と寄り添い、アルムにとって聖母マリアのような存在でもあるのだ。初老の老人が一番の友達であるアルムは、心は少年でも、身体は80歳。両親が経験していない老いや死と共に生き、両親が自分のためにつく嘘や気遣いも全て察知し、胸の中にしまい込む。その淋しげで、何かを悟ったようなアルムの目が生きることの厳しさを静かに問いかける。
 
 
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同世代と青春時代を過ごせないアルムが書き連ねるのは、出会ったころの両親の話。カン・ドンウォンとソン・ヘギョが10代の高校生に扮し、陽光こぼれる森の中で出会うシーンは色々な意味でドキドキする。両親のような青春、恋愛の日々は送れなくても、どこか鳥の目になって両親のことをみつめるアルムの眼差しが作品にも反映され、辛い場面も距離を保って見守ることができるのだ。『世界で一番いとしい君へ』の「君」は、息子アルムから、若くして子育ての苦労を重ねてきたパパとママに向けられているように思えてならない。難病ものだが、笑顔もいっぱい。そして透明感のある映像に心がほぐれた。
(江口由美)
 
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