制作年・国 | 2015年 日本 |
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上映時間 | 1時間51分 |
監督 | 才谷遼 |
出演 | 白波瀬海来、長森雅人、飯田孝男、川津祐介、山谷初男、なんきん他 |
公開日、上映劇場 | 2015年8月29日(土)~シネ・ヌーヴォX、9月14日(土)~京都みなみ会館、今秋~元町映画館他全国順次公開 |
~阿佐ヶ谷発、実写とアニメで綴る少女の飽くなき探究ファンタジー~
関西の人間にとって、東京の阿佐ヶ谷はあまりイメージが湧かないが、本作ではその阿佐ヶ谷に住む少女、ミミが主人公となり、戦前の阿佐ヶ谷、しいては東京を紐解いていく。学生時代は岡本喜八監督に師事し、映画館「ラピュタ阿佐ヶ谷」の経営や、「アート・アニメーションの小さな学校」を開校、事務局長を務める才谷遼の初監督作。往年の名番組『まんが日本昔ばなし』を見ているような味わい深いアニメーションや、ポップなコラージュアート、さらには人間コマ撮りなども駆使し、セシウムにまみれた現代や、戦争に突き進む戦前の重たい雰囲気を軽やかに描いている。
高校生のミミは、2011年の福島原発事故により東京にセシウムが届いて以来、モノを食べると舌がチクチクする。学校では少し浮いている存在だが、小さい頃から本や新聞をよく読むミミは、セシウムや原発に違和感を感じながら生きていた。大事にしていた九官鳥の失踪後病がひどくなった祖母を元気づけようと、九官鳥探しをはじめたミミは、あるきっかけで雷神のらーさんをはじめとする、ちょっとくたびれた神様たちに出会うのだが・・・。
ミミを演じるのはオーディションで選ばれた新人、白波瀬海来。個性派が揃った神様たちの中でも、好奇心に満ちた瞳を輝かせ、妙に馴染んでいるところがいい。九官鳥探しから祖母の青春の日にタイムスリップし、北原白秋作詞の童謡や、レトロかわいいダンスまで披露している。また、九官鳥の名前であり、祖母の憧れの人として登場する北原白秋をはじめ、井伏鱒二や太宰治ら文士たちが阿佐ヶ谷に集っていた当時を再現。「戦地に行くな」と声に出して言えない戦前の日常は、微妙な空気を帯びてきた現代と重なる部分も多く、ゾクリとさせられる。
祖母の青春を辿ったミミが、自身の青春に目を向けたときに向かった先は福島。そして夏休みの自由研究としてセシウムの定点計測に取り組んでいく。米軍の水爆実験で被ばくした第五福竜丸も見学し、17歳なりに核や原爆について真摯に向き合っていくのだ。日本古来の神様たちと少女という組み合わせで、日本の過去、現代、未来を考えていく様を、緩やかなトーンのファンタジーに仕立てた意欲作。アニメーション同様、随所に挿入される美しい原風景の数々が、未来への希望を抱かせてくれた。(江口由美)
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