原題 | WILD |
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制作年・国 | 2014年 アメリカ |
上映時間 | 1時間56分 |
原作 | シェリル・ストレイド『わたしに会うまでの1600キロ』静山社刊 |
監督 | ジャン=マルク・ヴァレ(『ダラス・バイヤーズ・クラブ』) |
出演 | リース・ヴィザースプーン、ローラ・ダーン、トーマス・サドスキー他 |
公開日、上映劇場 | 2015年8月28日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、TOHOシネマズ西宮OS 他全国ロードショー |
受賞歴 | 第87回アカデミー賞主演女優賞/助演女優賞ノミネート |
~一歩ずつ大地を踏みしめ、過去の自分を越えていく~
ランニングを始めてから、私は距離を意識して動き、自分なりの尺度ができた。3キロなら歩けるなとか、10キロなら1時間ぐらいで走れるなとか。今までなら漠然とすごいものに思えていた「1600キロ」という距離も、自分の尺度に置き換えると、私が一年間地道にランニングをした距離の倍!その長さにただ圧倒される。しかも3カ月たった一人で歩ききったのだ。その過程をつぶさに覗いてみたいという思いに駆られた。シェリル・ストレイドの自叙伝を出版前に読んだリース・ヴィザースプーンが、作品に惚れ込み、製作、主演を務めた本作。シェリルの過酷な旅や、旅に至るまでの激しい人生を、今までのイメージを覆す、剥きだしの演技で表現したリースと、ジャン=マルク・ヴァレ監督(『ダラス・バイヤーズクラブ』)の情熱が伝わってくる。
カリフォルニアの1600キロに及ぶ自然道、パシフィック・クレスト・トレイルを歩こうと思い立ったシェリル(リース・ウィザースプーン)は、たった一人で旅の準備をするものの、荷物が重すぎて持てないあり様。1日目から辞めたくなったり、携帯コンロの燃料を間違えたり、失敗ばかりの旅路だが、一人きりの毎日は今までの人生を振り返る時間となる。だが、危険な目に遭いながらも、なんとか旅を続けるシェリルに、壮大な自然が立ちはだかるのだった。
ロサンゼルスの北、モハーベという町を起点に、セコイヤ国立公園、ヨセミテ国立公園を経て、オレゴン州からワシントン州へと流れるコロンビア川にかかる神の橋までの1600キロトレイルは、草原から氷河、砂漠、岩場とバリエーションが豊かで、本当に魅力的だ。そんな自然の中、荷物に振り回され、色眼鏡で見る男たちに細心の注意を払い、断崖絶壁からあろうことか靴まで落としてしまうシェリルは、傷だらけの身体で、まさに孤軍奮闘状態。女一人旅の醍醐味や危険を、大自然と共に包み隠さず映し出す。チェックポイントでシェリルが書き込む有名な詩人の言葉に勇気づけられる旅人たちとの交流も、自分に自信をつける力となる。一歩ずつ、とにかく前に進むこと。シンプル過ぎることがいかに旅に、そして人生において大事かを、シェリル演じるリース・ヴィザースプーンが全身で伝えているのだ。
旅と同時に映し出されるのは、シェリルがこれだけ過酷な旅をするに至る経緯で、誰もが知りたいと願う重要な場面だ。父の暴力に耐え、シングルマザーとなってからも明るく笑顔を絶やさなかった母ボビー(ローラ・ダーン)とその喪失、夫がいながら喪失感に耐えられず堕ちていくのを止められない自分の弱さ。克服すべき過去の自分をフラッシュバックのように挟み込み、説得力のある演技で見せるからこそ、シェリルにとっての一歩がどんな意味を持つのかが自分のことのように沁みてくる。大自然の中で自分のちっぽけさを嫌というほど思い知らされ、まる裸になった気持ちに達して、はじめて生まれ変われるのかもしれない。孤独な旅の友となった往年の名曲『コンドルは飛んでいく』が、やさしく胸に響いた。
(江口由美)
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