映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『海のふた』

 
       

uminofuta-550.jpg

       
作品データ
制作年・国 2015年 日本
上映時間 1時間24分
原作 よしもとばなな『海のふた』中公文庫刊
監督 豊島圭介
出演 菊池亜希子、三根梓、小林ユウキチ、天衣織女、鈴木慶一
公開日、上映劇場 7月25日~テアトル梅田、神戸国際松竹
 

~辛い現実の中で、支えあい、自分の生きる道を探す二人の女性の物語~

 
よしもとばななの同名小説の映画化。西伊豆の海辺の寂れた町で、こだわりのかき氷屋を開くために故郷に帰った“まり”と、大切な人を亡くした“はじめちゃん”が過ごすひと夏を描く。うまくいかない現実と向き合い、自分の生きる道を模索する二人が、さりげなく支えあう姿がいい。今、人気の菊池亜希子が、繊細で傷つきやすいもろさを隠し、自分の信じた道を進もうとする、しっかり者のまりを好演。
 
 
uminofuta-500-1.jpg
都会で舞台美術の仕事をしていたまりは、仕事を辞めて故郷の町に帰ってくる。幼なじみで元彼の治に、大好きなかき氷の店を開くと宣言。一人で空き店舗を探し、開店の準備を始めたところに、まりの母の友人の娘のはじめちゃんがやってくる。顔に火傷の痕が残り、同居していた祖母を亡くしたばかりで情緒不安定なはじめちゃんに手伝ってもらい、二人の夏が始まる…。
 
uminofuta-500-2.jpg
 
 店のメニューは、糖蜜とみかん水のかき氷と、エスプレッソだけ。自らサトウキビを煮出して糖蜜をつくる凝りよう。高い理想で始めたものの、客はなかなか集まらず、現実の壁にぶつかる。かつては賑わった町も、今では、寂れ、観光客も少ない。高校卒業後、地元に残って、両親の営む酒屋の手伝いをしている治も、何か悩み事を抱えているよう。
 
uminofuta-500-3.jpg
 
 
 まりと治が最初に話をするのは、埠頭の一角。まりが自転車に乗ってぐるぐる回りながら、かき氷屋の夢を語る。まりと治が歩きながら話をしたり、はじめちゃんと3人で夜の砂浜で花火をしたり、一緒にいればそれだけで元気が出て、つらい現実と向き合う勇気がわいてくるような、そっといたわりあう距離感が心地よい。治と意見がぶつかり、激しく泣くまりの姿は、心の奥に抱えていたいろんな思いが一気にあふれ出たようで、忘れられない。不思議な響きのタイトルは、インディーズ・ミュージシャン原マスミの名曲「海のふた」から。伊豆の青く、美しい海は、感情の海、こころの中の海とも重なり合い、海の神秘的な力を感じさせる。迷いながらも、ゆっくりと歩いていけばいい、そんなメッセージが伝わってきた。
(伊藤 久美子)
 
公式サイト⇒http://uminofuta.com/
(C)2015 よしもとばなな /『海のふた』製作委員会

カテゴリ

月別 アーカイブ