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『さよなら、人類』

 
       

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作品データ
原題 A Pigeon Sat on a Branch Reflecting on Existence 
制作年・国 2014年 スウェーデン・ノルウェー・フランス・ドイツ 
上映時間 1時間40分
監督 監督・脚本:ロイ・アンダーソン
出演 ホルガー・アンダーソン、ニルス・ウェストブロム
公開日、上映劇場 2015年8月8日(土)~YEBISU GARDEN CINEMA、8月22日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、近日~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開

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~あゝ、傷つきやすく、脆く、愛おしき人間に乾杯!~

 

Let it be。ビートルズの名曲ではないが、「あるがままに」をそのまま銀幕に焼きつけたような映画だった。本能(?)に従って生きる人の営みを限りなく静かに、かつストレートに見据えていた。そこに独特な笑いを生じさせるのだから、面白くないはずがない。北欧スウェーデンのやや寒々しい淡彩な映像の中で繰り広げられる、動きの少ないドラマが何ともけったいな感じ。それに拒否反応を示し、着いていけない人は退屈するだろうが、ぼくはハマった。
 

sayonara-500-2.jpg全然、売れない面白グッズを売り歩く2人組のセールスマン、フラメンコ教室で生徒の青年に恋する女性インストラクター、「船出するたびにめまいがする」と信じられない理由でフェリーの船長から床屋に転職した男性……。登場人物は個性豊かだが、ある意味、個性がない。というのは、みな仏頂面だから。しかも顔に薄く白塗りしているせいで、貧血気味と言おうか、不健康そのものに見える。当然、覇気も笑顔もない。


ないない尽くしだが、言葉もあまり発しない。大人しすぎる。動きも緩慢。もっとシャキッとせんかい! イラチ(せっかち)のぼくにはそう言いたくなるほどスローモーだった。不気味と言えば、不気味である。地球人の格好をした宇宙人、そう、イギリス映画『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013年)の宇宙人にだぶって見えた。冒頭のプロローグ、博物館で鳥の剥製を死んだような顔つきで黙ったまま突っ立って眺めている男性がいきなりエイリアンに変身してもおかしくなかった。しかしそうはならない。


前回、ここで取り上げたアルゼンチンのオムニバス映画『人生スイッチ』で次から次へと登場してきた、感情を爆発させる熱いキャラクターとは一転(真逆?)、こちらの登場人物は感情を全く表に出さない。人間の本性に迫るというテーマは同じなのに、作風からしてまさに両極端な映画。南米と北欧。地域・お国柄によってかくも異なるところがたまらなく興味深い。


sayonara-500-1.jpg本作は39シーンで構成されている。2人のセールスマンがいわば狂言回し的な存在で、別のシーンを彩る他の人物の生き様を見ていくので、群像ドラマのようにも思える。かといって、関連性のないケースがあるのだから、やっかいだ。例えば、騎馬隊を率いてロシアとの戦いに出陣する18世紀のスウェーデン国王カール12世が時空を飛び越え、突然、カフェに現れるシーン。いったい何やねん? 唖然とさせられた。この国王のさり気ない振る舞いはケッサクだったけれど。まぁ、1つのシーンが日常の断片を切り取った1つのエピソードと思えばいい。それを寸劇のように見せている。


驚いたのは、全て固定カメラでワンシーン、ワンカットで撮っていることだ。本当におったまげる。溝口健二も真っ青。そこに前述したのっぺりした登場人物が悠長に映し出されるのだから、けったいとしか言いようがない。でも絵画を鑑賞しているようでもあり、その映像につい見惚れてしまう。しかも全場面がスタジオのセットで撮影されている。線路わきでセールスマンのコンビが喧嘩するシーンは動く列車を収めており、屋外でしか撮れないと思うのだが、それもセット撮影だという。一方、屋内の場面は、人生を暗示しているかのように奥行きがあり、ドアが必ず空いている。映像的にもすこぶる面白い。そこにロイ・アンダーソン監督の強烈なこだわりが感じられる。願わくは、この人の頭の中を覗いてみたい。


sayonara-500-3.jpg先が全く読めない想定外の展開ばかり。「元気そうで何より」というセリフがちょくちょく聞かれるも、外見上はみな元気そうではない。セールスマンが商品の笑い袋を見せても、だれも笑わない。当人たちも! それを見てぼくはクスクス笑った。そして、だれもが思うようにいかない。その不条理さ、シュールさがこの映画の通底をなしている。だからこそ、彼らが傷つきやすく、脆く、愛おしい人間に思えてくる。


原題(A Pigeon Sat on a Branch Reflecting on Existence)を直訳すると、「存在を映しながら、枝にとまる一羽のハト」。何だか意味深で、哲学めいている。ぼくは勝手にこう解釈した。「そのハトに見られている人間の素なる姿のスケッチ」。深読みしすぎかな。この原題から『さよなら、人類』という宇宙ロマンを思わせる邦題をつけた人(映画配給会社のスタッフ?)の柔らかな頭脳に敬意を表したい。


sayonara-500-4.jpg『散歩する惑星』(2000年)、『愛おしき隣人』(2007年)に続く、アンダーソン監督のリビング・トリロジー(生きることを描いた映画の三部作)の最終章。ぼくは前2作を観ていないので、15年がかりで三部作を完成させた意義について語る資格はない。けれども、人生最後にして最大の舞台ともいえる「死」のひとコマをとらえたこのシーンを観て、監督の真意がわかったような気がした。


フェリーのカフェテリアで突然死した男性を船長と乗組員が取り囲む中、注文して残ったサンドイッチとビールの処理をめぐり、船長の提案で1人の乗客がある行動を取る……。泡のなくなった、見るからにまずそうなあのビールがぼくの心をときめかせた。

武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト⇒ http://bitters.co.jp/jinrui/

(C)Roy Andersson Filmproduktion AB