原題 | 原題:Turist インターナショナル・タイトル:Force Majeure |
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制作年・国 | 2014年 スウェーデン・デンマーク・フランス・ノルウェー |
上映時間 | 1時間58分 |
監督 | 監督・脚本:リューベン・オストルンド |
出演 | ヨハネス・バー・クンケ、リサ・ロブン・コングスリ、クララ・ヴェッテルグレン、ヴィンセント・ヴェッテルグレン、クリストファー・ヒヴュー、ファンニ・メテーリウス |
公開日、上映劇場 | 2015年7月18日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、8月1日~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開 |
~微妙にすれ違っていく夫婦の距離感を巧みに描く~
“男性らしさ”“父親らしさ”のイメージが崩れた時、夫婦は、新しいイメージを模索しつつも、再び絆を取り戻すことができるのか。観終わって、ざわざわした気持ちがいつまでも残る、不思議な映画である。何かすごいことが起こるわけではない。でも、心の中に決定的なことが起こってしまい、いつまでも消えずに残っている…そんな感じだ。
スウェーデンからフレンチアルプスに、子連れでスキー旅行にきたトマスとエバ。家族4人が仲良く記念写真を撮ってもらうシーンから映画は始まる。ヒュッテのテラスでランチを楽しんでいると、近くで人工的に起こした雪崩が誤って間近まで襲ってきて、ちょっとしたパニックになる。幸い、雪崩は直前で止まり、また元どおり平穏な食事の光景が戻るが、雪煙に包まれた中でトマスがとった行動が、家族の間にみえない波紋を呼ぶ。
翌朝、家族はスキーに出かけるが、どこかぎくしゃくし始める。エバは、雪崩が迫ってきた時の恐怖と衝撃が忘れられず、その時のトマスの行動を問い詰めるが、素直に認めようとしないトマスに違和感を募らせていく。トマス自身も、自分が咄嗟にとった行動に戸惑いを隠せず、自己嫌悪で、感情をコントロールできなくなっていく。寝る前に、夫婦が鏡に向かって並んで歯磨きをする際の表情や仕草の微妙な変化で、二人の距離感が伝わり、巧みだ。電動歯ブラシの機械音が不穏に響く。
トマスは、“父親は家族を守る存在”という期待どおりの行動ができなかった歯がゆさと、息詰まるような居心地のわるさに苦しむ。雪山を滑っては、ホテルに帰って寝るという単調な繰り返しの中で、家族のすれ違いは決定的になっていく。スキー場の、一面雪に覆われた静謐な銀世界で、規則的な機械音をたてて進んでいくリフトの音や、ロングショットでとらえられた真夜中のスキー場の光景や、ヴィヴァルディの「四季」の『夏』のメロディが、不安を増幅する。
同じホテルに旅行にやってきた、トマスの友人マッツと年下の女性とのカップルにも、あるべき男性像についての問いが投げかけられ、ささいな言葉に傷つき、ささくれだった感情をもてあますマッツの姿がユーモアを交えて描かれ、似たような経験は誰にもあるように思われ、共感を呼ぶ。
インターナショナル・タイトルは『Force Majeure』。不可抗力という意味で、いきなり恐怖や危険な目にあった時、人はどんな行動ができるのか、観客の心にどこまでも想像の翼を広げていくような余韻が、なんともユニークだ。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒http://www.magichour.co.jp/turist/
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