原題 | LOIN DES HOMMES |
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制作年・国 | 2014年 フランス |
上映時間 | 1時間41分 |
原作 | アルベール・カミュ『転落・追放と王国』(新潮文庫刊)所収「客」 |
監督 | 監督・脚本:ダヴィド・オールホッフェン |
出演 | ヴィゴ・モーテンセン(『ロード・オブ・ザ・リング』、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』、『イースタン・プロミス』)、 レダ・カテブ(『不機嫌なママにメルシィ!』、『黒いスーツを着た男 』、『預言者』)、 アンヘラ・モリーナ(『欲望の曖昧な対象』、『シチリア!シチリア!』) |
公開日、上映劇場 | 2015年6月13日(土)~シネ・リーブル梅田、近日~京都シネマ、元町映画館 ほか全国順次公開 |
~友情を通して人生を選択する男たち~
フランスの植民地アルジェリアの学校でアラブ人の子どもたちにフランス語を教えているダリュ(ヴィゴ・モーテンセン)は、アルジェリアで生まれ育ったにもかかわらず、「フランス人からは“アラブ人”と、アラブ人からは“フランス人”と」看做されていた。植民地生まれの人間が感じる複雑な思いが、ダリュにも常につきまとう。
だから、アラブ人の殺人容疑者モハメド(レダ・カテブ)がフランス人憲兵バルドゥッチに連行されて来て、モハメドを一山越えた町タンギーまで護送せよと命ぜられても、ダリュは断る。裁判にかけられたらモハメドは確実に死刑だからだ。それでも、憲兵はモハメドをダリュに預けて去った。
ダリュは、モハメドの縄を解いて逃がそうとするが、モハメドは逃げない。そして、夜明けに復讐の追手の襲撃があり、また家畜を殺されたと誤解したフランス人牧場主がモハメドを殺そうとやってくる。ということで、やむなくタンギーへのふたりの道行となる。
アルベール・カミュの原作短編「客」(「転落・追放と王国」所収)をもとに、ダヴィド・オールホッフェン監督が映画化した「涙するまで、生きる」は、文学作品の映画化だからと〈非人文系〉映画ファンは敬遠するなかれ。むしろ、アクションもあるアメリカン・ニューシネマのロードムービーであり、男の友情物語であり、どことなくマカロニ・ウェスタンの雰囲気がただよう。監督は〈西部劇〉として撮ったと言っている。
道中、しだいにふたりはお互いの身の上をぽつりぽつりと話す。そして、モハメドが逃げないで裁判にかけられようとするのには、深い理由があることがわかる。
ダリュは、町外れのあいまい宿のマダム(アンヘラ・モリーナ)のもとに、モハメドを連れて行く。モハメドがまだ女性と接したことがないと聞いたからだ。(この原作にはないエピソードは、アメリカン・ニューシネマの佳作「さらば、冬のかもめ」を想起させた。微罪で刑務所に送り込まれる新兵の護送を頼まれた古参兵ジャック・ニコルソンは、まだ女を知らない少年のような新兵を売春宿に連れて行く。)
目的地のタンギー手前の分岐点で、モハメドは最後にお守りだと言ってアラブの古いコインをダリュに渡す。ふたりの友情の証だ。左の道は憲兵隊の建物、右の道は砂漠へと通じている。ダリュはモハメドに言う、「俺のことは気にするな、生きろ」と。そして、モハメドが選んだのは…。
これも原作にはないが、学校に戻ったダリュが子どもたちに〈最後の授業〉をするシーンがエピローグとして加えられている。ダリュもまた新しい人生を選択するのである。
音楽(ニック・ケイブ、ワーレン・エリス)も、どこかエンニオ・モリコーネのような美しい旋律で、これまたマカロニ・ウェスタンとの親和性を感じた。
(夏目 こしゅか)
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