原題 | RUN BOY RUN |
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制作年・国 | 2013年 ドイツ・フランス |
上映時間 | 1時間47分 |
原作 | ウーリー・オルレブ作 『走れ、走って逃げろ』 母袋夏生訳 岩波書店刊 |
監督 | ペペ・ダンカート |
出演 | アンジェイ・カクツ、カミル・カクツ、ジャネット・ハイン、ライナー・ボック |
公開日、上映劇場 | 2015年8月15日(土)~ヒューマントラスト有楽町、テアトル梅田、9月12日~京都シネマ、9月26日~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開 |
~あの時代を生き延びた少年の勇気と希望~
ユダヤ人少年の実話に基づく小説「走れ,走って逃げろ」の映画化だという。スルリックは,1942年,ナチス・ドイツ占領下のポーランドで,ワルシャワのゲットーから逃げ出す。そして,ユレクと名乗ってポーランド孤児を装い,1945年の終戦まで生き延びた。監督は,映画の全編をロケーションで撮影したという。美しい自然は,少年を優しく包み込んだり,凛とした厳しさを見せたりする。水面に映る木々の揺らめきが不安を掻き立てる。
ユレクを取り巻く社会やそこで生きる人々の姿もしっかりと描かれる。救いの手を差し伸べる者もいれば,扉を閉ざしてしまう者もいる。夫と息子2人がパルチザンだというマグダは,凍死寸前のユレクを救い,生き延びる方法を教えた。報酬を得るためユレクをドイツ軍に引き渡すポーランド人がいれば,ユレクの才気と勇気に感服したドイツ軍将校には命を救われる。ユレクを匿って家を焼かれた女性が「許して」というシーンは胸を打つ。
ユレクは,仲間とはぐれたときや愛犬を埋葬するときなど,声を上げて泣く。他のシーンとの落差にやや違和感を覚えるが,彼の不安や孤独が表象される。また,カトリックの祈りの用具であるロザリオは,彼の心の葛藤のように思える。父からユダヤ人であることを忘れるなと言われたが,ユダヤ人であるために右腕を失った上,命を守るためとはいえ堅信まで受けた。終戦後,彼がスルリックに戻るためには相当の葛藤があったに違いない。
スルリックの父との別れのシーンの一部を冒頭で見せ,その全容を最後に示すという構成が巧い。ユレクがスルリックに戻り,そのモデルとなったヨラムへと繋がっていく。彼は,1962年にイスラエルに渡り,今は子2人と孫6人がいる。戦争がもたらす悲惨な状況の中でそれに屈しなかった人々の象徴的な存在だが,決して超人的な存在ではない。身を挺して息子を守った父の思いが終戦まで細い線で繋がり,現在では扇状の広がりを見せる。
(河田 充規)
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