制作年・国 | 2014年 日本 |
---|---|
上映時間 | 1時間51分 |
監督 | 篠原哲雄 |
出演 | 栗山千明、桐谷健太、三浦貴大、谷村美月、音月桂、根岸季衣、山口いづみ、永島敏行、豊原功補 他 |
公開日、上映劇場 | 2015年5月30日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国公開 |
~山の幸、海の幸に育まれた淡路島で、伝統を受け継ぐ若者たち~
子どもの頃から海水浴や旅行など、淡路島は兵庫県民の私にとって一番身近なリゾート地だった。そんな淡路島が、古事記や日本書紀に記されている「国生み(くにうみ)神話」に、「日本で最初に生まれた島」とされているだけでなく、朝廷に食材を献上する「御食国(みけつくに)」でもあったということを知ったのは最近のことだ。身近な場所の魅力を再認識するだけでなく、そこで高齢化の一途をたどる第一次産業の担い手として、伝統を受け継ぐ若者たちを、自然の再生に絡めて描いたヒューマンドラマ。私たちが淡路島の海の幸、山の幸を味わう裏にある、島人たちの熱意ある取り組みや葛藤を、丁寧に描いている。
13年に急逝した塩谷俊監督の『種まく旅人 みのりの茶』(11)では、人間と自然のつながりや、農業に従事する人たちの姿がオール大分ロケで描かれたが、本作でも繊細な人物描写に定評のある『小川の辺』の篠原哲雄監督がメガホンをとり、『種まく旅人』シリーズの精神を踏襲している。栗山千明演じる若き農林水産省官僚の恵子が、調査のためにやってきた淡路島で農業の現場に触れ、地元の人と化学反応を起こす様子は、最初こそコミカルだが、伝統手法“かいぼり”の復活にまい進し、諦めていた地元の人を動かす情熱的な姿に転じていく。ため池の水を抜き、堆積した腐葉土を流し出すかいぼり作業のシーンでは、皆泥だらけになりながら、額に汗して働いている。そのような今復活を試みている地域の営みを取り上げ、自然の循環作用を知ることができるのも、『種まく旅人』シリーズならではの魅力だ。
恵子が出会う兄弟として登場するのは、タマネギ農家の長男、岳志と、海苔の養殖の修行をしている次男の渉。岳志を演じる桐谷健太と、渉を演じる三浦貴大は、見た目もそっくりで、本当の兄弟のような絶妙のキャスティングだ。仲たがいをしていた兄弟がそれぞれの思いを胸に、地元、淡路島の第一次産業を挫折しながらも背負っていこうと奮闘する姿は、とても頼もしく映る。
もう一つ是非注目してもらいたいのが、海苔養殖場を営む桜井の娘、渉の彼女・麻衣(谷村美月)が取り組んでいる人形浄瑠璃。国指定重要無形民俗文化財でもある淡路人形芝居、その中の人情浄瑠璃のシーンも劇中で度々登場する。淡路島の伝統芸能の魅力と共に、ここでも伝統を継承する若者たちにエールを送りたくなるのだ。淡路島で生き、自然の恵み、昔から受け継がれてきた芸能を守り、それらで生計を立てていく若者たちの目線で描いた青春物語でもある『種まく旅人 くにうみの郷』。観光地だけではない淡路島に、ぜひ出会ってほしい。(江口由美)